episode 5
暗闇の中で聞き慣れない音がずっと聞こえている。
それは何かを引きずり回すような音、それだけじゃない。声が聞こえる、それは明らかに俺自身の声だ。しかし何を言っているかよく聞き取れない。耳を凝らして聞くと次第に声がはっきりしていった。
「い!……いた…痛いよおぉぉぉ!!」
絶叫しながらどこからか俺が出てきた、思わず目を瞑ると仄かな暖かさと淡い光を感じる。
目を開くと目の前には焚き火と、刀の手入れをしているブレザーの男がいた。
「た、タクか?」
「起きたか。
ずっと眠っていたぞ、マサル。」
男は手を止めこちらを見ていた。
そう、ブレザーの男はタクであった。
「お前、一体なんで?」
「じいさんを標的にしてたらお前が近くに倒れてたからよ、友達だし助けて当たり前だろ?」
「いやそういうんじゃなくて!
なんでお前はあんなに戦い慣れているんだ?なんであんなに簡単に人を殺せるんだ!?」
俺はタクの胸ぐらを掴んで問いただす、タクは黙って真っ直ぐこちらを見つめていた。
少しの沈黙の後タクは口を開いた。
「最後に俺とお前が生き残った時に教えてやる。」
冷静ながらも鋭く光るタクの瞳、それを見た俺は一瞬たじろいだ。しかし俺は胸ぐら掴む手をより強く引っ張り問いた。
「今すぐ教えろ!人殺しの理由を!!」
その言葉を聞くとタクは俺の胸ぐらを掴み俺の顔めがけて頭突きをした。俺は思わず手を離し倒れた。
「自分の命を狙う相手が目の前にいる、だから俺は殺したんだ!殺らなきゃ殺られる!」
「で、でも!命を取るなんて!
…動きさえ止めれば、戦えないようにすればいいんだよ……」
俺の言葉を聞いたタクは大きなため息をついて首を振った。
「甘いな、そうやって取り逃がした相手はこれ幸いとお前を襲う、その時はどうなっても知らんぞ。」
そういうとタクは刀を手にどこかへ行ってしまった。
初めてだった。タクがあんな風に俺にものを言ってくるのは、とてもビックリした。
「俺は…割り切れない……」
その場にうずくまって俺は目を閉じた、さっきまで寝ていたけど寝るようにした。
目を覚ましゆっくり起き上がるとどこかで戦闘しているような音が聞こえた、逃げなきゃ。
すぐにその場を立ち去り逃げた。
全力で走った、なるべく戦闘が行われている場所から離れる為に。自分が生き残るために。
どれほど走っただろうか、いつの間にか音は聞こえなくなっていた。俺は足を止めその場に腰を下ろした。
「はぁ…はぁ……ここまでくれば大丈夫か?」
最近は逃げてばかりだ。でもこれでいい、なるべく戦闘は避けるんだ。
呼吸を整えて落ち着こうとした、しかしどこからか視線を感じる。
気になった俺は能力を発動して辺りを警戒する。見える範囲では…誰もいない、だが一向に視線は感じたままだ。
「バーン!」
遠くから聞こえる銃声と共に顔の横を何かが掠めた、頬に手を当てると血が出ている。
「まさか、スナイパーか?」
市街地で攻撃してきた奴がまた俺を狙っているのか?…考えている暇はない!
俺は横に有った気に隠れ銃弾が飛んできた方向から見えないようにした、しかしこれも気休め程度だ。
どうする?相手の居る方向が分かっていても細かな位置は分からない。それに相手がプロなら同じ場所には居ないだろう、スナイパーは射撃すると自分の位置がバレないよう移動する。これじゃどうにもならない!
長考していると突然クリアー音が流れた。
「脱落者が出ましたー!
残り6人!残り6人です!
リプレイ動画をどうぞ!」
ボタン君が地面に映すと、そこには俺を攻撃してきたじいさんがいた。
じいさんは鬼のような形相で獲物を探すかのように周りを見て歩いていた、すると後ろで何かが一瞬光るのが見えた。次の瞬間、ゆっくりとじいさんの頭は地面に落ち鈍い音を立てた。
首から血を吹き出しながら倒れるじいさんの身体、その後ろには死体を見つめるタクが居た。
映像が終わるとボタン君は続けて話した。
「それではステージ移動を行います!」
そう言うと辺りの樹木は音を立てながら次々と倒れ突風と共に足元の草花が舞う、あまりの突風の腕で顔を隠した。
樹木の倒れる音が止み肌に何か粒のようなものが次々と当たるのを感じる、腕を下ろし状況を確認すると景色は一変していた。
砂嵐が起きている中で目視できたのは声が詰まるほど大きな断崖絶壁だった。
「第三ステージは山岳、山岳です!」