episode 3
足元では草花が風を受けて踊るかのように揺れて、目の前に凛々と立つ大木は賛歌を歌うかのように大きく音を立てた。ここが第二ステージの『森林』か。
あまりにも美しい光景に俺は見蕩れてしまった、ふとさっきのリプレイを思い出し我に返る。
タク、あいつは何故あんなにも易々と…いや、今は考えている場合じゃない。まずはあいつを見つけて聞いてやる。
俺はまず探索をとその辺を歩いて回ることにした。
ハンドガンを片手にあたりを見渡しながら森を歩く高校生、ただの変態だな。笑いながら先へ進んだ。
森林には蝶や蟻といった虫はおろか生き物がいるような気配が無かった。何故だろうか?こういった場所なら生き物がいくらかいてもおかしくないのに。そう考えていると目の前をキレイな蝶がヒラヒラと横切った、それは生物の授業で観察して実際に触ったことのある蝶だった。
「懐かしいな。」
あの頃は何も考えずただ日々を楽しむ事だけに全力を尽くしていた、あの頃のように安らぎや楽しみがある日々へ戻れるだろうか。
いつの間にかその場に足を止め目で蝶を追いながら考え事をしていた、いつもの悪いくせが出てしまった。
先へ進むとどこかで重く身体に残るような音が聞こえた、これは…給湯室で聞いた音だ。その後に空気の振動を肌で感じた、一体何が起きているんだ?
さらに続けて二回同じ音が聞こえた、どうやら進む先で音が発せられているようだ。何となく危険を感じた俺はそこから右へ進むことにした。
そういえば俺はどこへ向かっているのだろう?ふと気になった俺は空を見上げ太陽の位置を確認した、太陽は俺の真後ろでさんさんと輝きを放っている。俺はこのことを頭に入れておき、後で位置を再確認することにした。
俺は何かを目指すわけでもなくただ進んだ。
突然何かの気配を感じた、恐ろしくなって辺りを見渡すが何も無い。しかし気配は依然として感じることができる。
するとどこからかボタン君が姿を見せた。
「能力を忘れてませんか?」
「え?えーと、あそうだ!
でもどう使えばいいんだ?」
「頭の中で能力が発動するイメージを持てばいいんですよ。」
「イメージ?」
そう言われた俺は頭の中で能力系のアニメを思い出した、あの手のものは掛け声とともに発動するのがテンプレ。
「発動!」
ハンドガンを持つ手を目の前に伸ばし叫ぶと、視界に異変が起きた。
一定のリズムで赤い線が足元から目の届く先まで広がり、その線が通り過ぎると木や草は赤い半透明になりそれらを越して先が見えるようになった。
これが『透視』か。
俺はすぐに辺りを見回した、すると後ろからナイフを持ち黒いマスクを被って頭部を隠す人物がこちらに近づいているのに気付いた。
俺は咄嗟にマスクのナイフを持つ手を撃った、弾丸は見事ナイフに当たりマスクはナイフを手放した。ナイフは飛ばされ遠くへ落ちた。
「く、くそ!」
マスクはナイフを拾おうと走った、そうはさせるか!マスクが伸ばした右腕へ一発、当たった所で両脚へ一発ずつ撃ち抜いた。
マスクはその場で倒れ動けなくなった。
「ごめんなさい。」
俺は一言言ってその場を走り去った。走り続けマスクが見えなくなるほど遠くまで来た俺は足を止め近くの木に寄り掛かった。
緊張した。さっきは遠くからの狙撃で相手は見えていなかったが、今は目の前に相手がいた。実際に殺気を感じたのは初めてだ、あんなにも…あんなにも恐ろしいものなのか。
俺の手脚は震えていた、緊張からか恐怖からか。
突然クリアー音が流れた、三人目の犠牲者が出たのか…
「脱落者が出ました!
残り七人!残り七人です!
リプレイ動画をどうぞ!」
ボタン君は地面に映像を映した。
映像には針を使う眼鏡の男を倒した鎧がいた。
鎧は構えたまま動かなかった、何故かと不思議がっていると映像にはブレザーの男が映った。
「こいつ、またか…」
最初に動いたのはブレザーの男だった、地面を蹴り一気に距離を縮めた。鎧は咄嗟に左に持つ剣を横に振る、するとブレザーは既の所で地面を蹴り高く上へジャンプした。鎧は残る右手の剣を立てて斬りかかる。しかしブレザーはそれを蹴って手に持つ刀を横に振った、ブレザーの脚が地面に着くと同時に鎧の首は身体から離れ落ち映像が終わった。
いつの間にか能力は解除され目の前には緑が続くばかりだった。