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Blaine out  作者: こっぴゃん
3/13

episode 2

俺はひとまず身体に刺さっている針を抜くことにした、針は深々と刺さる針は先を痛々しい紅に染めて抜けた。抜いた腕や腹からは血が流れている。

「し、止血しなきゃ…」

俺は来ているブレザーを腹に巻いて縛り、腕や足はワイシャツをちぎって縛った。

今の俺は赤のシャツに紺のズボンだ、何とも言えない服装に俺は苦笑いしか出なかった。

「鎧が…まだ来ない内に。」

手すりに手を掛け立ち上がり九階へ行った。九階もどこと変わらず長い廊下があり途中に給湯室や手洗場、その先に広いオフィスルームがあるだけだ。

今度は給湯室に(こも)ることにしよう、扉で中は見えないし鎧が来ても俺の肩幅程しかないこの部屋を入ることは出来ないだろう。

壁を背に俺は腰を下ろした、流石に疲れた。

「大丈夫ですか?」

いつの間にかボタン君は肩の横あたりにいてこちらを見ていた、ボタン君の変わらない表情はどこか心配そうに見えてきた。

「うん、大丈夫…だと思う。」

「誰にも殺られないでくたばるなんてしないでくださいよ?」

この一言に頭にきた俺はボタン君を殴ろうとした、しかしボタン君はまるでバカにするかのようにユラユラと動いて拳を避ける。

「攻撃するならボクじゃなくてプレイヤーにしてください、殺しあってもらわないとボク達としても困りますから。」

「ボク達?つまりゲームマスター側か。一体どんな理由で俺達にこんなことを?」

「それは言えませんよ、ネタバレは面白くありませんから。」

そういってボタン君は消えた。

まったく、さっさとこんなこと終われば良いのに…

俺は狭い給湯室で(うずくま)っていた。

するとどこかで重く身体に残るような音が聞こえた、何か分からず気にはなったが今は動かない方がいい。

突然ドアノブが音を立てた、しかし開かない。誰かが来たのか?不安になった俺は銃口を扉に向けていつでも逃げられる様にひざまづいた。

ドアノブが下がりとうとうドアが開く。相手が見えた瞬間に脚を撃つ、そう覚悟した。

だがドアは人ひとり通れるか否かという幅を開けて止まった、きっと向こうも警戒しているのだ。

「あの、誰かいますか?」

若い男の声がこちらに呼びかけている、しかし応えるわけにはいかない。俺は黙って銃口を扉に向けていた。

「安心してください、僕はあなたと戦うつもりはない。」

男は扉を開けたままさらに呼びかけている、相手は一体何を考えているんだ?俺には全く検討がつかなかった。

「僕は今武器を持っていません、だから開けても良いですか?」

男は扉の隙間から両手をこちらに出してきた、男の言う通り何も持っていない。だが信じて良いのだろうか?もしかしたら相手は見えない所に武器を隠し持っているかもしれない、そんなことを考えていた。

「このまま開けますよ?いいですね?」

男は出していた手をこちらに見せたまま腕で扉を開いた。

扉の向こうには白衣を着た細い青年が立っていた、見た感じ俺の五歳ほど上だろうか。

「じ、銃を下ろしてくれ。僕は戦いたくない。」

彼は脚で扉を抑えて両手を上げたままこちらに話しかけてくる。

「僕の名前は高橋 ミツル、薬剤師をしている。」

そういいながら彼は首から下げている名札を見せた、そこには彼の言った名前と顔写真と「NA」の文字があった。

「NA…成辺製薬?」

そう呟くとミツルは笑顔で反応した。

「そう、成辺製薬の職員なんだ。

どうゆう訳か僕もこのゲームに参加させられたんだ、でも僕達人間は殺し合いなんて求めていない。そうだろ?」

ミツルの話を黙って聞いた、彼は俺と同じように戦いを好まない性格なのだろうか?彼は俺と同じく本当に殺し合いをしたくないのだろうか?

「君もそうだろう?」

その問いかけに俺は思わず頷く。

「そうか、なら僕達は仲間だ。

大丈夫、僕は君を信じる。」

段々と近づいてくるミツル、俺は何故か彼を攻撃できなかった。「仲間」という言葉に戸惑っていた。

「心配しなくていい、僕は君の仲間だ。

一緒に生き残る術を考えよう。」

ハンドガンをもつ俺の両手を包み込む様にミツルは両手で覆った、その手の暖かさに俺は安心した。

彼の一言ひとことに安らぎを与えられた。

「…はい、宜しくお願いします。

俺はマサルです。」

「マサルか、よろしく!

君、怪我しているようだけど?」

ミツルは俺の両手を覆ったまま視線を腹に持っていった。

「ええ、ちょっと…」

「それはまずい、丁度止血剤と痛み止めを持っている。使ってくれ。」

そういって彼は手を離して白衣のポケットから透明の袋に入った錠剤と絆創膏の様なものを出した。

「ありがとうございます、でも水は?」

「これは水が無くても飲めるんだ、ストレスなく服用できるから緊急時には役に立つさ。」

俺はミツルの言うことに疑いを持たなかった、言われるがまま渡された錠剤を口に含むとミツルはニヤリと笑った。

「ん?」

「飲んだかい?」

そう聞かれ、まだ口内にあった錠剤を飲み込んで答えた。

「今飲みました。」

「そうか、それは良かった。」

その言葉を聞くと、突然目の前がモノクロになりミツルの顔が歪んで見えた。身体が揺れるような感覚に陥りまともに立てやしない、とうとうその場で尻餅をついた。

何か飲まされた!

そう感じた俺はミツルを睨んだ。

「な…なぬを……すた…?」

思うように呂律が回らない、自分でも何を言っているか分からなかった。

「君が飲んだのはね…神経剤だよ。僕が人を殺す為に調合した代物さ。」

やけにはっきり聞こえるミツルの説明は俺を混乱させた、普段ならすぐ理解出来るはずなのに薬のせいか何を言っているか全く分からなった。

ミツルは膝をついて俺の髪を掴んだ。

「んー、よく耐えるな。

普通なら今頃コロッと逝っているのに。」

ミツルはポケットからさらに錠剤を取り出した。また飲まされる!

「これなら流石に逝くだろう。」

錠剤を袋から出して俺の口に入れようとした瞬間、

ミツルが俺の横に倒れ込んだ。

倒れた衝撃で髪を掴まれていた俺と持っていた錠剤が吹っ飛ばされた。

何があったかとおもむろに扉を見るとそこには刀を持つ見慣れたブレザーを着た男が居た。

「おら、邪魔だ。」

男は倒れている俺を担いで窓から投げ飛ばした。

九階から落とされた俺は意識が朦朧(もうろう)としたまま何かに掴もうとした、幸運にもどこかの空いた窓に手が引っかかり一度は止まった。

しかし力が上手く入らず手が滑って落ちてしまう。もうダメだ、そう思った。

すると突然すごい衝撃と腰あたりに柔らかい感覚があることに気づく。

下を見るとそこはゴミ収集コンテナだった、どうやらゴミがクッションになってくれたようだ。


「たす…け…た……」

未だに呂律は回らない、気を貼ってないとすぐ意識が飛んでしまいそうだ。

頭の中がグルグル回っていると唐突にあることが過ぎった。

中学生の時の理科の授業だ、先生が黒板に毒の種類を書き並べて教鞭をとっている。

「…というわけだが、ところで皆は麻酔も一種の毒だということを知っていたかい?」

麻酔なんて今どき病院でしか扱わないからな、そんなに興味を持ったことは無い。そんなことを思っていたのを覚えている。

「実はこの麻酔、医学的に何故感覚を麻痺させるかなどはまだ解明されていないんだ。

ただ服用するとそうなる、ただそれだけで使われているなんてちょっとおっかない話だな。」

麻酔、もし自分に使われた薬が麻酔ならどうにかなるのではないか、俺は打開策を考えた。

もしかしてブラシーボ効果なのか?あの脳が想像するだけでその効果が体内で行われるっていう…

俺は自分に言い聞かせた。

これは何も無い薬だ、ただの栄養剤だと。すると身体の感覚は次第に戻り普段通りに動けるほどまでになった。

ひとまずコンテナから出よう、臭いが酷すぎて居れたものではない。

ふと自分のハンドガンはどこにやったか気になった、持ったまま投げ飛ばされたから落としたかもしれない。そう思ってあたりを見渡すと地面に落ちていた。

「良かった。」

手に持ってちゃんと動くか確認したが問題は無い、ひとまず胸を撫で下ろした。

「さて、ここはどこかな?」

もう一度あたりを見渡すと後ろと目の前を大きな壁があった、後ろのものは俺が居たビルだし目の前も多分ビルの壁であろう。俺はここが路地裏であると判断した。

とりあえずここから移動するか、ビル内にいた奴らが追ってくるかもしれないし。

俺は路地を出て大きな通りに出た、その風景はどことなくいつも見る街の風景に似ていることに気づく。

「ここは、俺の街なのか?」

身体を揺らしながら頭を抱えて考えていると耳を刺すような音と共に俺の顔の横を何かが物凄い勢いで通り過ぎた。何があったかと後ろを見ると、ビルの壁に弾丸が着弾していた。

狙撃されている!俺は瞬時に状況を理解することができた。

ふと気がつくと俺はその場から離れ大通りを駆け抜けていた。走りながらも我に帰り、まずは安全を確保しなければならないと判断する。

しかし弾丸は俺を追うように後ろで地面や壁に着弾している。どうすればいい、もし相手がスナイパーならどこにいるか分かるのではないか?相手を探す案が自分の中で出たが、全力で走りながら相手を見つけることは出来ないという結論に達する。

ならせめて狙撃しにくいところに、それでいて他のプレイヤーから逃げられる場所へ。そう考えた俺は走りながら隠れる場所を探した、大通りから路地へ入り、そこから裏道へと駆け抜ける。

すると途中で鎖に縛られた鉄格子を見つけた、足を止め鉄格子に近づくと奥から水滴の垂れる音と何か機械の動くような音が聞こえてきた。

「もしや、地下か?」

鉄格子の向こうは下へと続く階段があった。

すると足元に銃弾が着弾する。

考えている暇はない!

俺は鎖に3発撃ち込んだ、すると鎖は切れた。鉄格子を開いて階段を降り切るとそこは用水路であった。

壁に等間隔で設置された照明、流れる水は光が当たって不気味な輝きをはなっていた。

外からは銃声は聞こえない、どうやら諦めてくれたようだ。大きなため息をつくとクリアー音が流れた。

またか、また誰かが死んだのか…

「脱落者が出ました!

残り八人!残り八人です!

リプレイ動画をどうぞ!」

ボタン君は壁に映像を映した。

映像には息を切らしながら階段を下りるミツルが映っていた、その様子はまるで何かから見げている様だ。

階段を下りてビルの外へ飛び出たミツル、するとそこには刀を持っていてブレザーを着て紺色のスボンを履いている男が立っていた。

あれ?こいつ、もしかして…

男の姿を見て震えるミツルは恐怖のせいか腰を抜かした、ブレザーの男はゆっくりと近づきその刀でミツルの首を跳ねる。

ミツルの身体は首から血を吹き出しゆっくりと倒れた、映像はここで終わった。

俺はミツルの死も衝撃だが、それよりもその相手に疑問を持った。

ブレザーに紺のスボン、あれは間違いなくうちの制服だ。このゲームに参加していてあの制服を着ているのは…あいつしかいない、間違いない!しかし何故あんなにも易々と人を殺せるんだ?

怒りと疑問が俺の中を駆け巡った。

「それではここでステージ移動を行いたいと思います!次は『森林』です!」

ボタン君の言葉を聞いて俺は唐突に地上への階段を上がった、よくよく考えると地下では危険だと判断したのだろう。

地上へ出ると周辺のビルが轟音を響かせながら煙を立てて崩れていた。

煙は辺り一帯へ広がり、苦しかった俺は口を塞いで目を閉じた。

轟音が鳴り止み目を開くと、目の前には俺の背を遥かに超えるほどの大木が凛々と連なっていた。

「第二ステージの『森林』!森林です!」

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