表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

二人のヤンデレ

 俺には幼馴染みが二人いる。

 いや、一人は現在進行形でいるが、もう一人はいたと言う表現が正しいな。

 交通事故で死んじゃったんだ、ついこの前。

 死んでしまったそいつを、俺はみーちゃんと呼んでいた。

 みーちゃんは、俺の彼女だった。

 みーちゃんは贔屓目で見なくてもかわいい女の子だ。

 背が小学生並みしかなく、いつも引っ付いてきていたが、その様子はとてもかわいらしかった。

 ポニーテールの髪型で、いっそうかわいさを引き出していた。

 いつも明るく人気者でモテモテだったのに、俺の隣に居てくれた。

 俺が他の女の子と話してると、いつも嫉妬して駆け寄ってきたりもしたが、そんなところもかわいかった。

 彼女は俺に依存してた部分もあったと思う。

 そして俺も彼女に依存していたのだろう。

 彼女は俺の自慢の彼女だった。

 彼女はトラックにひかれたそうだ。

 脳震盪を起こして、即死。

 俺が病院に駆けつけた時には、すでに亡くなっていた。

 なぜそのとき俺は一緒にいなかったのか。

 そんなことを考えても仕方がないとは思う。

 結果論だ。

 それでも一緒にいたら、助けられたのではないか。

 もしくは、彼女一人で死なせるなら、俺も一緒に事故で死ぬべきなのではないかと思った。

 俺は彼女が死んでしまったとき、絶望に近いものを覚えた。

 泣いて泣いて泣きまくった。

 そして、相手の運転手を殺したくなるほど憎んだ。

 ぶっ殺してみーちゃんと同じ目に合わせてやりたい。

 あるいは、それ以上の苦しみを与えなければならない…。

 ……落ち着け。

 みーちゃんはそんなことを望んではないだろう。

 相手を殺したからといって、みーちゃんが生き返ることもない。

 みーちゃんは、俺が全うな道を進むことを望んでいるに違いない。

 そんなことより、俺はみーちゃんとお別れをしなければならない。

 今日がみーちゃんの葬式の日。

 今日、みーちゃんは焼かれて骨と灰になってしまうのだ。

 今日を過ぎれば、二度とみーちゃんと会うことはできない。

 せめて別れの際は、笑顔でおくってやんなきゃな…。




「この度は深くお悔やみ申し上げます」

「ありがとうね、美姫のために来てくれて…」

「いえ…」

 ……言葉が見つからない。

「美姫の最後の姿を見てやってね」

「はい…」

 みーちゃんの棺桶に入った姿を見せられた。

 その姿は交通事故があったとはとても思えない、綺麗なものだった。

 今にも動いても不思議は無いように感じられた。

「動いてくれよ…みーちゃん…」

「目を開けてくれよ…」

 死んだとわかっている。

 二度と話すことも、何もできないこともわかっている。

 ……それでも言葉が出てしまう。

「かずくん…もう話してもしょうがないんだよ」

「…あーちゃん」

 唐突に俺に話しかけてきた。

 こいつがもう一人の幼馴染みだ。

 俺とみーちゃんはあーちゃんと呼んでいた。

 小さい頃からずっと、今、高校生になるまで三人で一緒に過ごしてきた。

 みーちゃんとは対照的に、長身で髪も短くボーイッシュな印象を受ける。

 あーちゃんもまた人気者で、美少女であった。

 俺とみーちゃんが恋人になっても、やはり三人で一緒に遊んでいた。

 ただ、若干みーちゃんとは仲がよくなかった気もする。

「みーちゃんがいなくなっても私がいるよ…」

「…」

「みーちゃんもそんなに悲しそうに送られたくないと思うよ」

「……そうだな」

「苦しくなったら、私を頼ればいいの」

「…」

「私をもっと頼ってよ…」

「あーちゃん…」

 ……ありがとう。

 心の中で礼を言うが、言葉が出てこない。

「かずくんは私がいればいいの」

「あーちゃんがいなくなくても平気だよ」

「私がかずくんを支えてあげるから」

「私がかずくんを守ってあげる…」

「誰にも渡さない…」

「絶対に…」

 アイツガヤットシンダンダカラ…

「あーちゃん、落ち着いて」

「あっ!…ごめんね」

 やはりあーちゃんも、みーちゃんのことで動揺しているのであろう。

 最後も何かぼそぼそと言っていた。

「あーちゃん、そろそろ葬式が始まるよ」

「あっ…うん、行こう」

 葬式が始まりお経が唱えられる。

 俺には葬式の時間がとてつもなく短く感じられた。

 式はあっという間に終わった。

 今日でみーちゃんとお別れなのか…

 別れたくないよ…

 みーちゃん…

「かずくん…」

 あーちゃんの心配と、なぜか嫉妬のようなニュアンスを含んだ言葉づかいが、心に残る。

「さようなら…みーちゃん」

 それが俺がみーちゃんにかけた最後の言葉だった。

 また、生まれ変わったら…いつか…




 葬式が終わり、次の日。

 俺は遺品整理の手伝いに、みーちゃんの家に来ていた。

 いつまでも死の余韻に浸っている暇はない。

 気持ちを少しずつ切り替えなければ。

 整理すると色々なものが出てきた。

 この前のデートに着てきたワンピース、いつも身に付けていたネックレス、日記なんかもも出てきた。

 ちょっと覗いてみるか。


 八月二十日

 今日はかずくんとデートの日!

 二人でゲームセンターに行ったよ!

 やっぱりかずくんはかっこいいなあ…♪

 …でも、またかずくんは汚いあの女と話してた。

 本当にうざいからどっか行ってくんないかな…

 かずくんは私だけと話せばいいの。

 他の女は必要ない。

 かずくんの彼女は私。

 絶対に誰にも渡さない。


 …なかなかとんでもないことが書いてあった。

 この日はあーちゃんと会った日じゃないか…

 …気を取り直して作業再開だ。

 …自分の彼女ながら恐ろしい。

 ………これは、この前プレゼントした時計だ。

 ピンク色のG-SHOCKだ。

 これが何気に最初のプレゼントだった。

 最初で最後のプレゼントになってしまったが。

 正直女の子に渡すにしては、ゴツ過ぎるデザインであったが、みーちゃんは大喜びしてくれた。

 一生大切にして宝物にするとまで言ってくれた。

 …ついこの前なのに何となく懐かしい。

 …この時計はみーちゃんの形見として俺がつけよう。

 とりあえず着けてみる。

 …うん、まあ普通だな。

 自分でもセンスが微妙だと思った。

『かずくん…』

 …ん?

『かずくん…聞いてる?』

 どうやらまだみーちゃんのことを吹っ切れていないようだ。

 幻聴が聞こえる。

『かずくん!』

 前に半透明の人間が現れた!

「うぉぁぁぁぁぁぁ!」

やめてくれ、お化けだけは本当に無理なんだ!

「お化けだぁぁぁぁ!」

『かずくん話を聞いて!』

「やめろぉぉぉ!こっちにくんじゃねぇぇぇぇ!」

「助けてぇぇぇぇ!」

『みーだよ!かずくん!』

 半透明の幽霊が俺に抱きつく。

「うわぁぁぁぁ!………あれ?」

『かずくん!だからみーだって!』

「……みーちゃん?」

『そうだよ!……会いたかったよ…!』

 マジで…?

『またかずくんと会えて嬉しいよ…!』

「え、ああ、うん…」

『でもかずくん…あーちゃんとあんなにいちゃいちゃと…彼女の私を差し置いて話して…どういうこと?』

「え…えっと…」

『かずくん』

……えっと、色々起こりすぎて混乱したわ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ