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月の出夜に

作者: 群青猫
掲載日:2015/10/13




 満ち足りた月が天上でさんざめいていた。

 女は、最寄り駅へと続く人気のない道を、先を行く知り合いの男の後ろについて歩いていた。

 言葉など交わさなくても、男の側に居られたなら女は幸せであった。たとえ男の心に自分が映ることがなくても構わないと思える程に愛おしいく想っていた。それは許されないことだとも分かっていた。

 不意に、男が足を止め、振り返った。女に微笑みかける。

「月がとっても綺麗ですね」

 唐突に放たれた男の思わぬ言葉に絡め取られて、戸惑い、せめてもと視線を逃がすように女は月を見上げた。

 月は、彼方より燦然と此方を望んでいた。黄金たるその輝きは夜空に圧倒的で、何ものにも代え難い美しさを魅せつけている。

 形を変えても翳りても、無くなってしまうことなどなくて、手を伸ばしても届くことのない月はこの世に存在し続ける。

 どうせ消せぬのならば。

 今、貴方が綺麗だと仰るのならば。

 求めて下さるのならば。

 堪えきれなくなり、惑いながらも、女は想いを細やかに零した。とても静かに囁いた。

「月まで連れて行って」

 男は女の手を引いて、内へと抱き寄せた。そして、躊躇うことなく唇を唇に重ねた。女はひとしずくの涙を頬に零した。自分の運命を知ったのだった。


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