天才兼変人問題児のことが好きで仕方ないので告白しようと思う。
『変人兼天才チートが手に負えそうもないので助け求む。』の中村 有馬視点です。
先に秋津 栞視点を読まないと内容が分かりにくいと思われます。
秋津 栞は変なやつだ。
自覚がないようだがかなりの有名人で、おそらく学校内で俺と並ぶ変人だと陰で言われている女。
そんな秋津を初めて認識したのは、俺が新入生代表をした、入学式の日。
俺は昔から大抵のことは人並み以上にこなせる方で、おまけに勉強も運動も好きだったから天才と言われるくらいにはなっていた。
外見も、まあ整っているんだろうし。
だからつまらないことも増えた。
周りの好意と妬みの混じった視線はかなり嫌いだった。
それのせいで俺は感情を表に出すのが苦手だった。
入学式の日、新入生代表として壇上に上がった俺は、始めに用意していた台本を丸無視し、他の話をした。
そのとき興味があって読み込んでいた本の内容で、それが手元になくても口に出せるくらいは暗記してきたからすぐ話せた。
俺が壇上に上がるときはきゃーきゃーと騒ぎながら俺を見ていた女生徒はぽかーんとアホ面を晒していたし、妬みとか…うん、まあそういう方向の好意も向けていた男子生徒も同様だった。
それは当然の話で、俺の話している内容は多分教師ですらも理解できないくらいの難易度だった。
教師の方を見ると、例にも漏れずぽかーんとアホ面。
つまらなくてつまらなくて、面白さを求めて台本を無視してこんな話をしているというのに、予想の範疇過ぎてむしろ面白くない。
あー、面倒になってきたなぁ。といつも通りの無表情で話ながら考えていると、一人の女生徒が目についた。
興味津々といった表情で俺の話に耳を傾けて、きらきらと輝いている瞳は俺を一直線に映す。
そこには嫌悪とか妬みとかがきっとあって、好意なんか少しも見せなかったけれど、あまりにもその視線が他の女とは別の方向で実直だったから、俺はその子に興味を持った。
そんな出会いから、さも簡単に“秋津 栞”という存在は、俺にとって特別なものへと変わることになる。
「な、っ!?」
「ふはっ! 残念、栞の負けー」
「あ? ちょっと待ちなさい。確かに私は負けたけども、二位だ。7点差で二位だ!」
「ねぇ、秋津。自分で二位二位って悲しくなんない?」
「悔しいに決まってるだろがぁぁ!!」
「まあまあ落ち着けよ、栞。メロンパンだぜ、お前の大好物」
「……機嫌を直してあげてもいい」
「ちょろすぎて心配になる」
入学して最初の実力テストの結果が貼り出されているのを秋津とその友人らが見ながらしていた会話。
仲が良いのか悪いのか、遠慮のない秋津らの会話を聞きながら、俺は自分の順位と、入学式の日に興味を持ったあの子の名前と順位を知る。
一位 中村 有馬 500点
二位 秋津 栞 493点
そう書かれた紙を眺めながら、秋津への興味は深まるばかり。
秋津 栞の外見は、所謂小動物系というか。
茶髪ショートで低身長。
表情はころころ変わるし、動きもどこか小動物、そうとしか言いようがないというか。
言葉遣いは普通に悪いし話し方がどこかおかしいし、友人が多いみたいで基本的に周りはガヤガヤしている。
制服のブレザーはいつも着ておらず、パーカーを羽織っていることが多い。
俺の憶測からして、低身長だからきっとブレザーがぶかくて気に入らないのだろう、憶測だが。
あとピアス。
右耳2つに左耳1つ。
一応進学校なので、制服をきちんと着ないとか、校則を守らないとか、そういうので問題児に見られるのはしかたがないのだけど、秋津は成績がいいからか先生からの信頼は厚いよう。
実際、先生からの熱意に負けて生徒会の役員に入ったらしい。
ちなみに俺は全く生徒会には興味がなかったのだけど、俺の今の興味の対象物が生徒会に入るのだから入る以外の選択肢はなかった。
つまり秋津は成績こそいいけれど、まったく優等生に見える外見ではない。
本来なら進学校では馴染めないタイプだと思うのだが、コミュ力が高いのか、素行はかなり悪いのだけど浮くことはないようだ。
とまあ、何故ここまで秋津のことを俺が知っているのかと言えば、興味があったのもあるし、単純に有名だからである。
「秋津、生徒会に入るつもりは本当にないか?」
「先生しつこいですね。だからモテないんですよ」
「先生怒るぞ」
「させん」
たまたま職員室に用があって立ち寄ると、独身の勧誘をして来た生徒会顧問の傷をいとも簡単とえぐるところを目撃してしまった、無情。
うちの学校は3年は受験勉強に集中、ということで早々と3年は引退し、生徒会は2年生中心となる。
だから一年の優秀な生徒を入れておかないと仕事が回らないようで、それには俺と秋津が必要だと教師は判断したらしい。
入学式のこともあってか、教師は若干俺に怯えているようで、話しかけやすい秋津の方を先に勧誘しているというわけで、そしてかなり必死だったようだ。
「頼む! 多少の校則違反は見逃してやるし!」
いや見逃すなよ、ふざけてんのか。と言いたくなるが、まあ俺だって校則は守ってない。
上位二名がこんな調子でこの進学校は大丈夫なのかと心配するが、俺と秋津は学園始まって以来の天才なのようで、そこのところは心配いらない、はず。
「いや、別にそれはいいんですけど。注意されても直す気ないし」
にこりと笑いながらの拒否。
秋津は小動物なわりには強かすぎて。
「あっ、じゃあメロンパンください、メロンパン。ついでに屋上の鍵」
屋上の鍵はついでなのか。
そしてメロンパンと言ったところで目が血走ったのが色々気になる。
「…し、しかたないな…」
おい、生徒会顧問。
別名風紀指導の鬼。
秋津は屋上の合鍵を作ってもらう約束を取り付け、購買で大量のメロンパンを奢ってもらい、生徒会の会計、次期副会長に見事就任した。
他にも、放送室でマイクをONにしたままメロンパンについて熱く語ったという奇行が見られる。
おそらく生徒会の仕事で放送を頼まれたときだったと思うのだが、放送室に秋津は友人数人と行ったのだろう。
そして本人はマイクがOFFだと思っていたのか、友人との会話は全校に放送された。
「メロンパンは日本発祥の菓子パンの一種で、パン生地の上に甘いビスケット生地(クッキー生地)をのせて焼くのが特徴。主に紡錘形のタイプと円形のタイプとそれ以外の形のタイプに分かれる。関西地方と四国地方の一部、中国地方の一部では円形のメロンパンをサンライズと呼称する習慣がある。表面のビスケット生地に数本の筋や格子状の溝が入れてある様がマスクメロンの模様に似ているためっていうのが主流なんだけど、他にも「メレンゲパン」が訛ってメロンパンになったとか、生地の中にメロンフレーバーが加えられていたためそうよばれるようになったとかいくつか説があって、どれが正しいのかは不明。のちにメロンを原材料に加えた商品も登場しているが、これは命名された理由とは無関係で、スタイルに実際が追いついた例。あとはな、」
「もういい、もういいよ栞。なんかメロンパン食べた気分になった、無理」
「私はメロンパン食べたくなったんだが。メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン」
「やばい…! 呪文に聞こえてきた…!」
「きっと私の血液はメロンパンでできてると思うんだ」
「だろうな!? お前ガチでメロンパンしか食わねーじゃん! メロンパンで栄養管理しようとしてるよな!? だから身長伸びねーんだよ!」
「おいこら、自然と悪口に持っててんじゃねーよ! …はっ! 待てこれ、マイクONになってんじゃん、ええええ!!!」
「バカ! 秋津マジバカ! そんなんだから万年二位(笑)なんだよ!」
「待てこら、次それ言ったら社会的に抹殺するって言ったよな!?」
「とりあえずマイク切れよバカか!」
ブチ、と切れた放送。
教師はまた何をしてるんだ、速攻やめさせに放送室へ向かえよ。と思った。
わりとここの教師は無能である。
つーか、秋津のメロンパンへの愛が怖い、怖い怖い。
「げふんげふん。えー、生徒会からお知らせです」
「平然装っても無理だよ、諦めな?」
「ちょっと黙っててくれるか!?」
学習しろ、聞こえてるんだぞ。
そのあと、その日限定でメロンパンブームが校内で起こり、メロンパンがすぐ売り切れたという。
そこで1つしかメロンパンをゲットできなかった秋津はぶちギレて、友人数人に宥められていた。
挙げ句、メロンパンを買った生徒が秋津の身に纏うオーラに負け、メロンパンを数人から譲り受けご満悦で頬張っていたという。
怖い、恐怖である。
他にも、
「先生。空が綺麗なので私は今からサボることにします」
「秋津ふざけるな、着席」
「いいえ、いくら先生でも自然には勝れません」
「先生は別に自然に勝とうとしてるわけじゃないんだぞ」
という会話が週三で繰り返されると聞いた。
どうやら秋津は自然が好きなようで、よく授業をサボって学校が所有している森によく探検に行っているこを見かける。
何故森を所有しているのかと聞かれれば知るわけないし興味もないのだが、秋津はその森がお気に入りのようだ。
そんなわけで俺もたまに空とかを眺める癖がついてしまったのだが、そのせいで教師の代わりに授業をしなければいけなかったり迷惑を被った。
体育の授業中も体力テストをすれざ全種目俺に負けたとぎゃあぎゃあ騒ぎ、終わると血走った目でメロンパンを食っていた。
男女の差があるでしょ。と周りの友人に宥められていたが、「優秀であるかないかの判断に男女だとか全く関係ない」とさも当たり前のように言っていた。
今まで俺が見てきた俺のことを敵視してくるやつは、何かしら理由をつけて負けたことを正当化していたというのに、秋津は何がなんでも諦めずに、なのに俺には全く関わらずに一人で張り合ってくる。
そしていつの間にか、俺が努力するのは秋津が原動力になっていた。
とにかくとにかく秋津 栞という存在は基本的に俺の規格外だった。
予想など全くできない行動で、実際関わったこともないのに俺の興味を引く。
テストで負ければ俺へ忌々しいと言わんばかりの視線を向け、小動物のように威嚇してくるし。
楽しいことや興味を引くことを見つければ、キラリと目を輝かしてそれだけ突っ込んでいく。
好きなものはとことん大好きだし、嫌いなものにはとことん関わらない、興味を向けない。
つまらなくてつまらなくて、全部俺の思い通りに動く俺の世界を、どこかおかしい秋津が変えてくれた。
いつか、俺の容姿を秋津が「ショートケーキに砂糖と蜂蜜をぶっかけたような顔」と表現したことがある。
よくわからないし、バカにしているのかとも思ったけれど。
秋津の見ているものや思っていることは、俺とは根本的に違っているのだ。
秋津の世界を俺も見てみたいし、共有したいし、俺のことを秋津に知ってもらいたいし。
好きだ、と感じるまでに時間はかからなかった。
欲しいものは欲しいのだ。
好きで好きで仕方がないのだ。
だから、俺は。
「付き合ってほしいんだけど」
秋津は俺のその一言で、持っていたメロンパンを落として泣いた。