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何を着てもよくお似合いです

『つーくん&まり』シリーズ番外編。


高校1年生の時のお話で二人は付き合っておりません。


猛勉強の末、まりと同じ高校に入学した俺。


幼馴染のまりとは、よく一緒に行き帰りしているし、

サッカー部に入り、ちょこちょこ試合に出してもらえて、

高校生活を楽しんでいる。

勉強以外では!


サッカーの練習試合で、大きなグラウンドがある街に行くことになった。

その街には、ショッピングモールができて、

カップルやファミリーで賑わっているそうだ。

サッカー部の仲間と

「帰りに寄ってくか?」という話になり、

「どうせなら、女の子呼ぶか?」という話になった。


そういうのを言い出すのは、たいてい頭もいいが調子もいい岩塚で、

そういう時に頼りになるのは、顔がいい本山だ。

「もとちゃん、女子に声かけてよー」

「えー何でおれが」と言いつつ、本山は実に爽やかに声をかける。

ということで、次の土曜日、練習試合の後、ショッピングモールで遊ぶことになった。


「まりも、来いよー」

「えーサッカー部じゃないから遠慮するよ」

「女子も来るって。けっこう来るらしいから、俺あぶれそう」

「じゃあ、行こうかな?」


よっしゃ!

サッカー部の仲間には「俺はまりと消えるから、後はよろしく」と言ってあるし、

競争率低いまりが欠けても誰も文句は言うまい。

おとなしくて、目立たないだけで、めちゃくちゃかわいいのになー。



練習試合を終えて、ヘトヘトだ。

俺は、制汗デオドラントを1缶使い切る勢いで、

体に爽やかな香りをまとった。

レモンライムだぜー。


隣では、石けんの香りだの、マリンシトラスだの、フルーティーフローラルだの、

いろいろな香りの制汗デオドラントの白い煙が舞い上がっている。

「ちょっと!混ざっちゃうじゃん。臭くなる」

「そっちこそ、離れてスプレーしろよ」

どいつもこいつも浮かれやがって。


待ち合わせのフードコートに行くと、まだ誰も来ていないようで、

俺たちは、とりあえず、ハンバーガーやみたらし団子を調達して、

小腹を満たすことにした。

岩塚が、今日来る女子の説明をするが、

俺にとっては、関係ないね。


女子が一人、また一人フードコートへ集まる。

「お疲れ―」

「どこ行く?」

「ちょっとちょうだいー」

集まった同士で話したり、ポテトをつまんだりしている。


まり来ないなぁと思って、電話しようとすると、メールが入っていた。

「来たんだけど、入れない。どうしよう?」

あーどうしたんだよ。

まりに電話を入れる。


「今どこ?」

「フードコート隣のトイレの前」

「どうした?おいでよ」

「うーん、私、場違いだもん。ごめんね」

俺は、移動しながら、まりの姿を探す。

あ、いた。

ぶは。何、そのカッコ。

まりは、上下ジャージ姿だった。

ヤバい、笑っちゃいけないが、笑える。


「つーくん。みんなかわいいカッコで、私どうしよう~」

「もしかして、俺に合わせてくれた?」

「そう!練習試合の後だって言うから、つーくん部活の服かなって」

確かに俺たちは、高校名入りの上下だけどな。


「浮かないようにと思ってこれ着たら、何か浮いてる~」

両手を頬に当てて、どうしようどうしようとつぶやく、まり。

何このかわいい生き物。

何を着ても、まりが一番かわいいよ。


「荷物取って来るわ。二人で回ろう」

「うん!でも、お友達といられなくてごめんね?」

「いいよ。午前中ずっと一緒だったし」

それに、まりと二人でいるほうがいい。


みんなのところに戻って、

「俺失礼するわ」

と伝えると、頭のいい岩塚は、察したようで、

「一言ごあいさつをしないとね~」とついて来ようとする。

いや、おまえ来なくていいから!邪魔なんだよ、とは言えず、

「そういうの、いいからさ」とやんわりと断るが、

「トイレ行くだけだよ」とついてくる。

何なんだよ!


まりの姿を目ざとく見つけ、岩塚は声をかける。

「はじめまして~。翼の親友、岩塚でぇす。よろしくね」

オイコラ、馴れ馴れしいんだよ!

「ああ、あの、植田です。よろしくお願いします」

「かわいいね~ドコ中?」

「ああ、あの、中学生ではなくて…」

まりの言葉をさえぎって、岩塚が大きな声を出す。

「ええ?小学生ー?」

ペシ!俺は岩塚の頭をはたく。

「なわけねえだろ。同じガッコのD組だよ」

「ええ?こんなかわいい子いたっけ?

お近づきになれて光栄です。よろしくね~。

また学校でね~。お邪魔してごめんね~」

そして、俺にこっそり耳打ちする。

岩塚は、手を振って去っていった。

あの調子の良さ、尊敬するわ。

犯罪者になるなよ、って言われんでもわかっとるわぁ!


「まり、ごめんな。変なやつだろ?

いいやつなんだけど、お調子者で軽いんだよなー」

「え、いいよ、いいよ。

それより、こんなカッコで来て、

つーくんも恥ずかしいよね。ごめんね」


いや、恥かしくないです。

まりは、何を着てもかわいいです。

何も着ていないのが、一番かわいいです、たぶん。


妄想を打ち消すように、俺は爽やかに言った。

「どこ行く?まりの見たいところに付き合うよ」

「実は、早く来すぎちゃって、見たいところはもう見ちゃったんだ」

「じゃあ、まりの服を見に行こう」

「つーくんの見たいところに行こうよ」

「俺は服が見たいの。女の子の服なんて、普段見れないじゃん」


と戸惑うまりの背中を押して、服を見に来ましたよ!

「これ着てよ。これ」

「スカート丈短いの、似合わないよ」

「いーから、いーから」

俺がいいな、と思った服何着かと一緒に、まりを試着室に押し込んだ。


「どう?」

「わぁ、かわいいー。他のも着てみて?」


「…どう?」

「わぁ、これもかわいいー。もういっこ着てみて?」


「……どう?」

「わぁ、これもかわいいー。何着てもかわいいー」


ジャージ姿に戻ったまりは、ちょっと疲れたような顔になって

「つーくんって、女の子みたいだよね」と苦笑した。

「私、サイズ的に着られる服が多くないから、サイズだけ見て服を選ぶから、すぐに決まるんだよね」

「そういうもん?」

「でも、ママとか友達と服を見に行くと、あれも着て、これも着てってすっごく時間がかかるの。

買わないって言っているのに、着るだけ着るだけ、っていっていろいろ着せるんだもん」

「そりゃそうでしょ。いろいろ着たらいいじゃん」

「そうかな?」 

「そうだよ!」俺は力説する。


まりはかわいいのに、地味なメガネをして、地味な服を着ている。

もっと、足や肩が出ているかわいいカッコしたらいいのに。

あー、さっきの服かわいかったな。

バイトとかしてなくてお金ないから、買ってあげられないけど。


「さっきの服、めっちゃ似合ってたし。スカート短くても全然変じゃないよ」

いやむしろ、短いのをはいてください、俺といる時。


「そう?」

ハンガーにかけ、戻そうとした服を手にまりはレジに向かった。

「これください。すぐに着たいので、タグをはずしていただけますか?」

お買い上げですかー?まり、金持ちだな。


「では、試着室へどうぞ。今お召しのものを袋に入れますね」

まりは、ジャージ姿から、

エメラルドグリーンの花柄のワンピースに、

オフホワイトのニットカーディガン姿に変身した。


「靴がヘン…靴買いに行こう」

今度はまりが言い出す。

「行こう行こう。ところでまりって何気に金持ちだな」

「お年玉貯めていたから。つーくんお年玉もうないの?」

何気に痛い質問だな。

「お年玉は、もらってすぐに無くなっちゃいましたー」棒読み。

「いざって時のために、貯めておくといいかもよ?」

はい、おっしゃる通りです。

来年のことを言うと鬼が笑うというけれど、

来年のお年玉は、まりと一緒にショッピングする軍資金に充てるわ。


サンダルを選ぶまりのため、俺は、

シンデレラに靴を渡す王子さまのような気持ちで、

いくつか差し出した。

その中で、アイボリーのサンダルを選んだまりは、

それを履き、少しだけ背が高くなった。


サンダルを履いても、まだ俺のほうが背が高い。

中学卒業まで、そんなに変わらなかったのに。


「私の買い物で終わっちゃったね」

帰り道、いつもよりかわいいカッコしたまりが言った。

いつも地味な、黒とか紺色とか着て、

長いスカートかパンツスタイル。

それが、今日は!生足。

な、ま、あ、しですよ。

白くて、やわらかそうな、生足。

そして、広く開いた襟ぐりから、小さな鎖骨がのぞき、

短い袖から、まろやかな肩も見える。


「俺は、服見られて、すっげー楽しかった」


まりのいろんな服装を見られたし、

日ごろ見られない部位も堪能できたし、

まりが試着室で、服を着たり脱いだりするのを妄想して、

まりが試着して買わなかった服、

匂いとか残っていたらドキドキだよなーとか考えると、

しばらくは、楽しく過ごすことができそうです。


「そっかー、また行こうね。今日は誘ってくれてありがとう」

隣のドアに消えるまりを見送り、俺は

「ん、またなー」

とさりげなく応じながら、身もだえした。


あああ、もっと見ていたいのに!

よし、またショッピングに誘うぞ。



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