表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/49

5話

太陽が水平線に沈みかけた頃、決戦はいよいよ佳境を迎えていた。

長門艦橋

『目標との距離、2万3千!』

伝声管を通じてそう報告が入ると猪口少将は「各艦、交互撃ち方用意」と言い、川本艦長は副砲のみならず高角砲にも射撃待機命令を下す。と同時に駆逐艦初霜、雪風、時雨で形成された第3水雷戦隊第17駆逐隊を率いる軽巡洋艦矢矧が砲雷撃戦に備えて長門や山城の左舷を一気に通過し、雷撃態勢に入る。

初霜艦橋

「来ましたね…………」

航海長の高見大尉が艦長の酒匂雅三中佐にそう言うと彼は頷くと矢矧に続いて面舵を命じる。

同様に雪風艦長の寺内正道中佐と時雨の工藤俊作中佐も同じ命令を下す。

矢矧艦橋

「砲雷撃戦用意!」

第3水雷戦隊司令の古村啓蔵少将がそう言うと、激しい水柱を縫いつつ4隻は射点を合わす。

そして……………

「用意!ってぇええええ!!」

矢矧艦長の原為一大佐がそう叫ぶと酸素魚雷8本が放たれ、6門の15.5㌢砲が火を噴く。

それに続くように初霜、時雨の4門の12.7㌢砲と雪風の6門の同口径砲が火を噴くいたのと同時に初霜から6本の90式空気魚雷が、雪風、時雨からそれぞれ8本の93式酸素魚雷が放たれたのである。

それに続くように態勢を立て直した第2水雷戦隊と4隻の重巡洋艦も突入したのである。

無論、ソ連艦隊もそれに屈せず砲雷撃戦を続け、羽黒と摩耶を立て続けに大破させ、大湊から援護に駆け付けた名取を撃沈。

ついに長門ら主力との距離は1万㍍まで迫ったのである。

長門艦橋

「弾種変更だ…………三式弾にしろ…………」川本艦長がそう命じると砲術長が訝しげな表情をしつつ「何故です?」と聞くと艦長は「まぁ、見てろ…………」と続いたのである。

距離9㌔で射撃命令が下るとズヴェルドルフ級軽巡に向けて三式弾が放たれるのである。

そして…………

同弾が目標に着弾すると艦橋の薄い部分を貫き、艦橋内部で炸裂し司令官や艦長を殺傷し、命令系統の断絶に成功し、軽巡洋艦が殆どとは言え圧倒的に数で勝るソ連艦隊に対して戦艦6隻と重巡洋艦鳥海以下4隻の重巡洋艦と第2及び第3水雷戦隊が奮闘し大きな打撃を与えたが、こちらも集中砲火を浴び続けた足柄が遂に舵を失い漂流、それと同様に足柄を護るべく奮闘していた駆逐艦吹雪、白雪、初雪の3隻も炎上していた。


だが大きな犠牲を払ってでもソ連海軍別働隊による東北や帝都に対する大規模艦砲射撃の未然に阻止する事に成功したのは戦略的勝利ともいえる。


一方、武蔵ら戦艦4隻重巡2隻駆逐艦6隻と戦っていた戦艦4軽巡3駆逐5からなる極東艦隊の主力は妙高撃沈及び紀伊の大破と引き換えに旗艦アルハンゲリスクが沈み、セヴェロドビンスクが大破し、スターリングラードと軽巡2が中破したのである。

武蔵艦橋

「紀伊より入電。"我、航行可能ナレド戦闘不能ナリ"との事です!」

艦隊通信士官がそう言うと小沢大将が「そうか…………紀伊には護衛に陽炎と不知火を付けて離脱を命じる」と呟くと「はっ」と通信士官が言い、命令を発信したのである。

満身創痍の紀伊は横須賀へ2隻の駆逐艦と松島の零戦部隊の護衛を受けて向かったのである。


一方、指揮官を喪失した敗残のソ連艦隊は命辛々カムチャッカ方面へ離脱したのである。

が、生存者の多くが粛清されたと言うのは予想出来るだろう。


4月25日暁前

東京・首相官邸

「鳩島貴族議会長の噂は本当なのか?」山本五十六総理がそう言うと、憲兵出身の副総理、野木原俊次郎中将が「はい、鳩島の食事会に記者として紛れ込ました憲兵諜報員の報告なので間違いないです」と答える。

端的に言うと鳩島(はとしま)史郎(ふみお)貴族員議長がソ連との深いコネクションを持ち、北海道の陸軍部隊の配置図を彼らに極秘裏に提供していたと言う事である。

山形某所

「失礼します。山本総理からの情報によりますと鳩島貴族員議長がソ連大使館に北海道の陸海軍部隊配置図を引き渡し、多額の報酬を得ていた模様です」

「そうか…………鳩島議長が1枚噛んでいたか……………」

穏やかな表情で海軍通信士官に対してそう言ったのは帝国陸軍の誇る名将、栗林忠道大将だ。

「予想通りだったよ…………」

栗林大将は3年前に陸軍次官として鳩島と食事を摂った際に、彼が発言したある事をしっかりと覚えていた。

"ソ連と同盟を組む事で、帝国はより良い国になる。それは時機に証明されるだろう"と、もう1つが、"いずれ帝国の政治体系もソ連と同じ方式にすべき"と語っており、以来、栗林の鳩島に対する不信感は年々高まっていたのである。

だが問題は鳩島本人が東京の鳩島邸におらず、何やら中国にいると言う噂が流れていた。

また、この話とは直接関係ないが、アモイの大使館付武官が中華民国政府軍の上層部から聞いた情報によると鳩島はどうやら共産軍が支配するエリアにソ連政府高官との交渉の為に向かっていると言う事を掴んだらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ