4話
推奨BGM 某ブラウザゲームより敵艦隊見ゆ
ソ連巡洋艦隊は戦艦同士の砲戦を横目に多数の駆逐艦を率いて東北の沖合いへと南下を開始。
数時間後、五藤存知少将率いる帝国海軍の第3艦隊第7戦隊所属の軽巡那珂から発進した星雲偵察機からの情報で軽巡ズヴェルドルフ以下のソ連艦隊が青森県沖に迫っているのが判明。
重巡古鷹座乗の五藤は最大船速を出すように命じると旗艦の古鷹と軽巡川内、那珂と指揮下にある駆逐艦子日、山雲及び睦月型5隻が続く。
(勝てる訳が無い……………)
五藤はそう内心で思っていたものの、口に出す事は無い。
艦隊は偵察機の情報で陣形を修正し、左舷に全砲門を向けた。
数十分間後、予想通り敵とのT字戦になったのである。
そして砲雷撃を開始するが、それを見破ったセバスキー少将は単横陣に陣形を変更を命じ、一斉に回頭する様に命じた。
反航戦。互いに逆の方向へ航行しつつ戦闘を行う戦闘様式だ。
だが、五藤は砲門の数でいくら劣ろうが退こうとはしない。
圧倒的な砲雷撃力の前に古鷹が火達磨になり大破し、艦隊司令である五藤少将も戦死。
続いて駆逐艦子日が船体を引き裂かれ、すべての乗員を道連れに海中へと身を没し、山雲も炎上しながら望月に衝突し、望月共々集中砲火を浴びて沈没。
卯月と睦月は軽巡川内と那珂と共にも大きく炎上しており、既に沈没は不可避となっていた。
唯一残った駆逐艦弥生は炎上する僚艦の影に隠れて命辛々脱出に成功し、艦隊壊滅を第2戦隊司令部に伝えたのである。
戦艦長門艦橋
「最大戦速!針路12!!」
猪口少将がそう言うと艦長の川本大佐が長門は最大速度である26.7ktまで速度を上げる様に命じ、指揮下にある戦艦金剛及び山城もそれに倣う。
最も、山城は24.5ktが限界ではあったが、出力120%にすれば、短時間とは言え、26.5ktを発揮することは可能であった……
山城艦橋
「艦長、最大船速と言いましてもコイツの機関室の耐久温度は長門や金剛より限界値が低いので24.5ktが限界ですよ…………」と航海長の金田大少佐が言うと艦長である俺、浜村清次郎大佐は「その通りだ。もうすでにこの山城の老朽化は金剛以上に進んでいる。戦わずして消えるより、戦える方がコイツも幸せだろう」と続くと彼は黙りこむ。
暫くすると武蔵から連合艦隊の司令部命令が入る。
どうやらこっちも接敵が近いみたいだ。艦橋から左右を見ると重巡摩耶に鳥海、羽黒や足柄に軽巡神通、球磨が駆逐艦共々船速を上げていくのが見えた。
更に上空には松島飛行場所属の零戦52型丙とその戦闘爆撃機型の62型に老朽化著しい97艦攻及び99艦爆が通過する。
1時間後、青森沖合上空
濃密な対空弾幕を縫い多数の攻撃隊所属機がソ連艦隊へ殺到、目標に照準を合わせる。
計21機の雷撃部隊は超低空を這う様に飛行して狙いを定めるが、高度調整中に火を吹いて墜落する機や、そのまま海面に機体を落とした機体も出たので、実際には5発しかソ連艦隊に命中させていないのであった。
もっともそれで駆逐艦1隻を葬り去り、軽巡1隻を航行不能に陥れたのであったが。
だが99艦爆も多大な犠牲を払いつつも2隻の軽巡の舵を破壊し、内1隻モトロフは自らの対空砲火が撃ち落とした3機が体当たりし、艦橋や煙突などを吹き飛ばしたのである。
無論、零戦も多大な犠牲を払いつつもロケットや緩降下爆撃による攻撃で駆逐艦2隻を沈めたのであった。
しかしその代償は45機中、半数以上の28機喪失、7機損傷と言う被害を受けたのである。
長門艦橋
「電探に反応あり!」と電探・通信員がそう言うと「来たか……………」と艦長の川本俊哉大佐が続き、司令の猪口少将がこの長門と7隻の僚艦に対して星雲水偵及び護衛として強風水戦を発艦させるように命じた。
敵艦隊との距離30㌔、航空観測部隊が飛び立ち、距離などの報告を行い、長門の猪口、陸奥の三好輝彦両少将に伝わった。
一方、ソ連艦隊も観測機を上げてレーダーも使い、我が艦隊を捉えたのである。
旗艦・キーロフ艦橋
「司令、本艦のレーダーがヤポンスキー艦隊を捕捉しました。手負いがいるとは言え、数の上ではこちらが有利です…………」
そう通信士官が言うと司令は冷静に「油断するでないぞ」と続き、艦長もそれに頷いた。
そうこうしているうちに日本の軽巡と駆逐艦がこちらへと接近してくるのが見えたのである。
軽巡神通艦橋
「敵艦見ゆ!距離12(㎞)」
艦橋最上部の観測所からそう報告が入ると「砲雷撃戦備えよ!」と第2水雷戦隊司令の伊崎少将がそう言う。すると神通艦長の村野昭一大佐が「水上戦闘、砲雷戦用意!」と叫ぶ。
すると第2水雷戦隊の旗艦である軽巡神通以外にも所属駆逐艦である初春、朝霜、海風、曙、朝凪、狭霧、村雨の7隻と附属で別動隊所属の重雷装巡洋艦である大井とその指揮下にある島風とその同型艦夕風と凪風も砲雷撃戦に備えT字ターンを描く。
そして…………伊崎少将が「撃ち方始め!」と叫ぶと多数の魚雷発射管と小中口径砲の砲門が開かれたのである。
キーロフ艦橋
「一斉会頭!トーゴーターンに備えろ」とセルゲロフ少将が言うと一斉に右へソ連巡洋艦は会頭し、「撃ち方始め」と司令が叫んだ瞬間、ソ連巡洋艦の誇る主砲が火を噴いたのである。
そして…………
神通艦橋
「来るぞ!面舵一杯!」
村野艦長がそう命じると神通は右に舵を取り、続いて左に舵をとってジグザグに航行する。これは敵のレーダーを錯乱させるための手法である。
そしてその間にも神通を始めとした第2水雷戦隊は魚雷の次発を装填し、2回目の雷撃に備え、ソ連艦隊に対して砲撃を浴びせるのであった。
そのソ連艦隊も多数の水柱に包まれる物の容赦なく反撃を行い、我が第2水雷戦隊も水柱に覆われたのである。だが………
「初春被弾!!」
見張りがそう報告したので伊崎は後を振り返った。するとそこには炎上して漂流する初春の姿が見えたのである。そして………
「海風、轟沈!!」続いて海風が敵砲弾によって船体を引き裂かれ沈みゆく姿が見えたのである。更に運が悪く魚雷発射準備を終えたばかりの重雷装巡洋艦大井にも敵弾が命中。その際に魚雷に誘爆して大井は大爆発を起こして爆沈したのである。
「くそ………」
伊崎がそう呟いた次の瞬間、ある見張りが島風型駆逐艦凪風が炎上しながら敵艦隊へ突っ込んでいくのが見たのである。
だが、酸素魚雷はソ連艦隊に少しとはいえ打撃を与え、駆逐艦5隻を海中へと葬りさり、軽巡洋艦1隻を航行不能に陥れたのである。
村雨、狭霧、曙も第2回目の雷撃の前に敵艦隊の集中砲火で撃沈され、島風も第1砲塔に被弾し、大破、撤退を開始していたのである。
とは言え、神通自身も改修で前後に設置された6基の長砲身10㎝高角砲の内、後ろ側の1基が破壊されており、もう1基が破片が刺さり射撃不能に陥っていた。
そして伊崎は離脱と同時に最後まで射撃を続けるように命じ、神通以下全ての所属艦は煙幕を張り、ソ連艦隊の目つぶしを実施。味方へ敵情を伝えたのである。
そして艦隊の殿を務めていた駆逐艦朝霜が轟沈したタイミングに合わせて第2迎撃艦隊がついに射撃を開始したのである。
長門艦橋
「2水戦の連中もだいぶ苦戦したみたいですね………撃ち方始め!!」
川本俊哉大佐がそう叫ぶと長門、山城、金剛が射撃を開始し、更にその後ろに続く三好艦隊の陸奥、比叡、霧島が射撃を開始し、大量の爆炎に海は覆われる。
そして上空の観測機の指示のもと、長門ら6隻の超弩級戦艦たちは砲撃を続行。
ソ連艦隊
「敵艦隊の本体か……怯むな!!各艦突撃しろぉー!!」
政治将校がそう言うとセルゲロフ少将と乗員たちは一斉に了解と言う。
激しい砲火の中、ソ連艦隊は突破を試み、反撃を実施。18㎝砲弾が戦艦陸奥の艦橋に直撃弾すると陸奥に座乗する三好少将は軽傷を負い、田所艦長は戦死した。
奇跡的に三好は軽傷で済んだので彼はつい半年前まで舵を握っていた陸奥の舵を再び握ることとなったのであった。後に三好が出版した”我が海戦記”と言う自伝の中で、最も軍歴で数奇なものであったと証言している。
夕闇に染まる海を鉄と火、そして涙と血で洗う決戦はいよいよクライマックスに入ろうとしていた。
因みにこの神通は史実と違い近代化改修により防空能力を得るべく10㎝高角砲を装備した一方で、史実通りに雷装も強化しており、高い防空能力と水上戦闘能力が共存している高性能巡洋艦といえる。
(で、川内型自体は4番艦が建造中止になるものの事実上の4番艦となる5番艦湧別が存在している)