29話
とりあえず北海道戦役終了。
1月27日午前7時
その日、蒼龍所属の流星43型が攻撃機の誘導の為に佐渡島上空を旋回し、3空母の攻撃隊へ指示を出していた。
同機及び天山24型は武装を撤去し、エンジン出力を強化、機能を廃した爆弾倉(もしくは魚雷装備箇所)に駆逐艦用の13号対空レーダーを搭載、上空からの精密捜索を可能としたASG機(AGS=空中捜索及び誘導機と言う新しい機種)に改装された機体である。
ついでに言えば後部機銃も廃したので常に烈風戦闘機の護衛の元で飛行しなければならない。
そもそもこの運用は練習艦隊司令として米国を昭和19年に訪問した際に、ある太平洋艦隊司令部幕僚の計らいで米空母で攻撃機搭載のレーダーによる早期警戒システムを見学した小沢治三郎現連合艦隊司令長官の提案であり、当時の連合艦隊司令長官の山本五十六大将も最新技術に興味を示し、それに乗った。
一方、攻撃部隊は…………
「久保塚中尉。何か嫌な予感がしませんか?」そう俺に尾島少尉が聞くと俺は「確かに嫌な予感がするな」と答える。
すると飛龍搭載の天山24型空中警戒機のオペレーターが『敵勢航空機複数接近中!恐らくリガ戦闘機部隊です!』と伝えてきたのである。
俺は操縦桿を緊張して握り直し尾島に「おい尾島、準備は良いな?」と聞くと尾島は「準備万端!」と答え13㍉機銃弾の装填を済ませた事を伝えてきた。
俺が率いる小隊に対して「良し。攻撃高度へ降下!目標はリガだ」と伝える。
すると新米の有村二等飛曹から「了解!」と返答が返ってくると同時に「了解!」と元木上飛曹から返答が返ってきた。
よし、準備完了。俺は愛機を降下させると攻撃高度へ入る。後から襲いかかる敵機の機銃弾と前から襲いかかる敵艦の|対空機弾幕が見えてくる。すくなくともいい気分では無いし、生きた心地がしない。尾島少尉も後部機銃で敵機を牽制するが、中々命中弾が出てくれない。所詮、旋回機銃など威嚇以外の効力は無いのでわかっているが。
まぁそれはともかく、高度200㍍、敵の対空砲の射程距離に何とか含まれない13㌔で魚雷を放つ。それと同時に俺は魚雷の重さから解き放たれた機体を急上昇させながら旋回させて格闘戦に備える。それと同時にリガに水柱が上がったのが見えたが
それと同時に撃墜されゆく元木機が見え、すぐに「尾島、敵はどこにいる!」と聞くと尾島少尉は「5時方向!斜め上方」と伝えてきたので機体を急上昇させて何とか回避する。すると敵機は左側面を急降下していき、海面ギリギリで炎上する巡洋艦の横を通り過ぎて再上昇する。
「さっきのには旭日旗がいくつも所いてありました。恐らく相手は熟練です!」尾島がそう言うと俺は「そうなら是非とも戦ってやろうじゃねぇか!覚悟出来てるな?」と聞く。すぐに尾島も「流星は戦闘機としても使えますからね!」と続く。そして俺はさっきのMiG-3戦闘機に照準を合わせると発射ボタンを押す。
すると主翼から鮮やかな4本の橙色の機銃弾が放たれ、敵機はその機銃弾は左右を通り過ぎるとすぐに回避機動を開始し、有村機への追撃を断念した。
間をとらずに俺はその敵機に対し再び照準を合わせると今度は敵機の胴体に向けて機銃掃射を浴びせ、撃墜へ追いやった。俺が敵機撃墜を確認したのと同時に攻撃隊長の友永大佐が『リガの炎上及び傾斜を模様!第2次攻撃の必要は無しと認む!』と伝えてくると副隊長江草中佐も『現在、敵艦弾薬庫にて断続的な火災が発生!昇降機から煙を確認しました』と報告が入る。
護衛の西澤廣義大尉率いる烈風隊もリガ搭載戦闘機を撃墜したが、西澤隊長機以下多くの機が敵機との交戦で被弾し、損傷していない機体は皆無であった。
戦爆問わず撃墜された機体も多く、リガ機動部隊壊滅の代価も大きいものとなった。
「犠牲は大きかったが、任務完了だな」
俺はそう尾島へ言うと「その通りですね。中尉」と彼女は頷き母艦への帰途へついた。友永・江草両攻撃隊は多くの犠牲を出したが、リガを何とか撃沈し新たな攻撃を阻止したのである。北海道奇襲の代償として多くの艦艇が沈没し、更には母校であるペトロカムチャスキー及びウラジオへの奇襲によりソ連太平洋艦隊はあと数年は立ち直れない様な被害を受けたのである。
琉球の搭載機の内戦艦伊勢援護に向かった紫電改はリガ搭載の攻撃隊の魔の手から確実に伊勢を護り、多くの攻撃機を撃墜し、日向による曳航は成功したのである。
そして1月31日、ソ連軍北海道占領指揮官は降伏勧告を呑み、4万の戦死者と引き換えに北海道を"ほぼ"奪還したのである。
そして停戦交渉についてもこの2日前に日ソ両国の代表はワシントンD.Cでの交渉を終え、1月30日には一応暫定的な停戦となっていた。
2月1日函館沖
重巡洋艦愛宕艦上
「…………伊藤整一連合艦隊司令長官に敬礼!」
愛宕艦長の原為一大佐がそう言うと二式大艇からこっちへ向かって来た愛宕搭載の高官輸送艇を水上機揚収装置が回収する前に横付けして黒の軍服を着た厳つい男が乗り込む。
一方で敗軍の将であるソ連軍極東方面司令長官のミハイル・セルゲイ陸軍大将の乗るソ連海軍軽巡ズヴェトラーナは駆逐艦陽炎、不知火、黒潮に包囲されつつ入港してきた。
愛宕作業艇揚収クレーン付近
「セルゲイ陸軍大将に敬礼!」
一応、愛宕の原艦長がそう言うと敵将へ敬意を示すかのように敬礼をする。
愛宕士官室
原艦長によって士官室へ連れて来られたセルゲイ中将はここで降伏書に調印。この日、北海道戦役が遂に終りを迎えたのである。
2月3日正午前
東京港には連合艦隊の指揮に特化した特務艦鳳翔が沖合に泊まっていたものの、一緒に入港して客船などの埠頭に停泊する戦艦長門に霧島、修繕なったばかりの大和及び陸奥の勇姿が高雄及び利根型重巡と駆逐艦初霜、若葉に時雨、霞と共にあり、国民への久々の一般公開が実施されていた。
その中でも一般公開の指定から外されていた臨時連合艦隊旗艦として指定された特務艦鳳翔へと6式垂直離着陸機が降り立つ。
するとある男が降り立ち艦内へと入っていく。
長官執務室
「入ります!」
そうある青年通信士官が言うと伊藤は「入れ!」と続き、執務室へはさっきの士官ともう1人の計2人の男が入る。
「伊藤司令。久しぶりだな」
そう言ったのは山本総理だ。それに対して伊藤は「おひさしぶりです」と続き、通信士官は退出し、しばらくすると給仕係が2人の為に食事を配膳する。食事をしつつ話しには花が咲き、最後に伊藤と山本は勝利の祝杯を交わし、2時には互いの職務へ戻ったのである。
とは言え北海道の復興の道は果てしなく険しい……………
そして満州へのソ連傀儡政権の樹立や朝鮮半島北部で共産系の政権が対等するなど、帝国の周辺もきな臭くなっていた。
一方でハワイに停泊する米戦艦ミズーリ艦上でトンプソン大統領は山本総理の特使である南雲忠一に対して対ソ戦で獅子奮迅の活躍を見せた大和型戦艦を購入したいとの提案を受けた。それに対して南雲は現在の帝国の状況では建造中の8、9番艦をもて余す可能性が高く、その売却と引き換えに援助を行うならと条件付きながら快諾したのである。もちろん、山本は最初からそのつもりであった。