22話
8月11日
札幌上空
突き抜けるような青空の下、4式戦闘機を操る俺、島田春一少尉はこの日、友軍爆撃機の護衛任に就いていた。
それはともかく、今日は珍しく気難しい疾風の発動機の調子がすこぶる良好で驚いている。
「ここまで敵機による妨害が無いのはむしろ気持ち悪いですね。分隊長……………」
俺がそう言うと分隊長の野木原修二中尉が『言われて見ればそうだな…………』と続いたが、次の瞬間だったある深山から『我、敵機を感知!1時の方角、距離3万!』と報告してきたのである。それに対し飛行隊長である小林照彦少佐が『了解!これより戦闘態勢に入る!各機、我に続け!』と叫ぶ。
すると多数の3式及び5式戦闘機と4式戦闘機が一気に加速する。
当然、俺の所属する第6中隊の疾風は一気に加速し、迎撃機
が待つ市街地上空へと向かう。
にしても凄い数の敵だ。俺はそう思いつつも機銃発射ボタンに指を翳し、照準装置に目を凝らす。
すると先頭の小隊が交戦を開始し、野木原分隊長搭乗機が急旋回して敵の頭を押さえ機銃を放ち早速、撃墜を記録した。
俺も敵機に照準を合わせ、発射ボタンを押し機銃掃射を浴びせる。だが敵機旋回し、ひらりと俺が放った機銃弾をかわす。
もう一度、俺は照準を合わせると今度こそとボタンを押す。
すると敵機の主翼に銃弾は吸い込まれ、火を噴いたのであったが火はすぐに消えたのである。
(自動消火装置……………流石、ドイツ軍相手に戦った連中だ!)
俺はそう思うと再び敵機に狙いを定めてボタンを押す。
次こそ撃墜と思って放った機銃弾は見事に敵機のエンジンに炸裂。敵機は機首から火を噴く。
「敵機撃墜、敵から操縦士の脱出を確認…………って女!?」
俺はそう言うと目を丸くする。
後に知ったのはこの日、交戦した部隊は農労赤軍婦人飛行隊と言う部隊であった事だ。
確かにこちらも女性兵士採用が始まり、後方での連絡飛行などに従事しているが、あちらさんには戦闘機乗りもいたとは…………
俺は唖然としつつも次の目標へと翼を翻し、照準を合わせる。
と次の瞬間、野木原隊長が『こちら野木原、我発動機不調!繰り返す我発動機不調!』と無線で伝えてきた。
俺と僚機の原伍長はすぐに隊長の援護に向かおうとしたが、隊長はそれを拒んだ。
そして俺は改めて隊長機を見ると2機の敵機に追い回され、主翼から火を噴きつつ降下していたのである。
そして隊長は他小隊所属の飛燕を撃墜して、再度上昇しようとしていた低空飛行中のYak-1戦闘機を発見、突入した。
「隊長っ!」
俺がそう言うと隊長機を追い回していたLa-1に照準を合わす。
感情に全てを支配された俺は怒り狂いつつ機銃を放つ。
すると狙っていた敵の風防を銃弾が貫き、風防を血に濡らす。
敵機撃墜を確認した次の瞬間、主翼に火災が発生している事を示すランプが点いていた。
俺はすぐに炭酸消火装置のノズルを捻り、火を消した。
その直後に右の方を見ると火を噴きながらもう1機のLa-1が墜落していったのである。墜落するLa-1戦闘機の横を原の疾風が通り過ぎ、俺にバンクを振る。
『隊長の敵、討ちましたね……』
そう原が言うと俺は「あぁ……」と頷き、隊長と俺、そして原と共に隊長の愛機の前で撮影した写真を懐から出して、それを再びしまった。
そして戦後、俺は隊長の家族に手紙にその写真を添えてを送った。
ともかく、野木原隊長以下、17名の戦死と引き換えに深山が放った6式飛行爆弾は市内に急設されたソ連軍飛行場を大きく破壊したのであったが、深山自身も7機を喪失したのである。だが、決戦兵器深山は英軍の高性能爆撃機ランカスターの性能の高さを証明したのである。
8月14日函館飛行場
この日、ある攻撃機がこの飛行場に到着した。
海軍の爆撃機、銀河を改良した5式地上攻撃機”銀河21型”だ。
この航空機は銀河を元に陸軍が改良を施し、武装は機首に新開発の長砲身37㍉機関砲を1門搭載し、遠隔式の後方防衛機銃を重量軽減対策の為に廃止し、爆弾倉に搭載できる武装も新開発の6式滑空爆弾(125㎏)を1発のみとなった。
だが、この銀河21型が欠陥の噂があったが反撃で大きな役割を果たすとはこの時はだれもが思っていなかった。そう、この機が搭載する6式滑空爆弾がソ連軍戦車部隊を足止めする大きな武器になるとは………