21話
8月1日
膠着する北海道戦線。特に留萌方面では一進一退の攻防が続いていた。
この日、石狩湾では重巡衣笠を旗艦とし、空母瑞龍、重巡青葉と4隻の朝潮型駆逐艦からなる艦隊が陸軍の特殊船あきつ丸、熊野丸と複数の戦時規格徴用輸送船と共に留萌へ到着した。
あきつ丸船上
「上陸開始せよ!」
仁田昌造陸軍少将がそう言うと兵員輸送用にあきつ丸及び熊野丸からは大発が、輸送船からは中発が海面に降ろされる。
とは言え、敵も沿岸陣地を築城し、こちら待ち構えていた。
浜辺へたどり着いた揚陸艇に対してソ連軍は122㍉ロケットを容赦なく放つ。
すると上陸直後の舟艇の一部が一瞬にして破壊され、多くの兵士は一瞬にして爆死。生き残ったとしても火達磨であった。
衣笠艦橋
「これは見過ごせん……………艦長、出来るか?」
そう俺に聞いたのはこの護衛部隊の司令、神田尚一少将だ。
それに対し「目標、市内敵陣地。弾種3式対空弾、時限信管を切り着発信管へ切り替え射撃を開始せよ!」と衣笠の艦長の俺、早乙女義三大佐が言うと同艦と青葉の主砲は右舷に指向され、仰角を上げて射撃に備える。
そして……………
「撃ちー方、始め!」
俺の号令と共に衣笠が火を噴き、青葉もそれに続く。
艦砲射撃の威力は絶大である、衣笠と青葉の砲撃はソ連陣地の兵士や武器弾薬を尽く消し炭に変え、生き残った兵士を怯えさせ指揮を下げる。一方では味方の士気を高めるのであった。
だが、敵もやられっぱなしでは無かった…………
『こちら瑞龍偵察3号。現在、敵戦艦が間宮海峡を通過した模様、艦級はガングード級と駆逐艦5の模様!』
やっかいな事になった…………
俺はそう思いつつも対地支援を瑞龍と護衛の霰に託して、この衣笠を青葉と湧別、そして駆逐艦満潮、朝潮と共に離脱させ、敵艦隊迎撃する様に提案した。
司令はその提案を了承。新たな護衛として軽巡阿賀野以下5隻 が石狩方面から3時間後に到着すると伝え、衣笠らは離脱。迎撃へと向かった。
数時間後、稚内沖
『敵艦感知……………砲雷撃戦用意!』伝声管を通じて電測長がそう言うと衣笠の艦内にアラームが鳴り響く。
夏の北海道特有の濃霧の中、マストの最上部に備わる対水上用レーダーは的確に敵を捉えた。
俺はそろそろ霧が晴れる。そんな気もしていた…………
「…………全主砲、射撃用意!弾種、91徹甲弾!」
そう俺が言うと衣笠と青葉、そして14㌢連装砲4基8門を備える改川内型の湧別が砲戦に備える。
だが敵艦の射程とこちらの射程は同格、加えて口径と言う壁があり、威力はあちらに分がある。
何とかこちらが先に砲撃を加えて先手を取ったが、このままT字を維持できるかは不明だ。
だが本艦と青葉は留萌まで向かわせない為にも砲撃を続けるしかない。やがて20㌔まで迫ると敵の射撃も正確さを増す。
無論、こちらも正確な射撃で敵艦の艦橋へ直撃を与えたが、次の瞬間には湧別を敵弾が引き裂き一瞬で轟沈に追い込んだ。
が、衣笠と青葉は一歩も引かない。いくら老朽化が進んでいようが、武装が貧弱だろうが、ここで引くのは帝国の敗北を意味する。故に砲撃を続けるのだ。
砲戦開始から30分、敵弾が青葉の艦橋を破壊し、艦長の田所広大佐以下艦橋にいた者全てが爆死。だが、3基の20㌢砲と損傷を免れた1基の長8㌢は火を噴き続け、魚雷も照準を定めていた。そして魚雷を放った、次の瞬間、敵駆逐艦の魚雷が青葉の船体中央と艦尾に命中し、機関室浸水発生及び内軸2本をへし折り、一時的とは言え航行不能に陥ったのである。
だが、青葉大破と言う犠牲と引き換えに駆逐艦満潮と霞の挺身雷撃は成功し、ガングードは8本の魚雷を満遍なく浴びて大きく炎上、傾斜していた。
雷撃の直後、すぐに敵駆逐艦は満潮と霞に対し砲戦を仕掛けるが、2隻との距離は僅か数㌔、勝利に湧く帝国海軍の駆逐艦は4隻の駆逐艦に対し、残っていた魚雷をセールスとばかりに一斉に放ち、1隻を沈め、残りを航行不能に追い込んだ。
そして数時間後、青葉は復旧の見込み無しとされ、衣笠の雷撃処分されたのである。
そして今も利尻水道には錆び付いた青葉の亡骸が、静かに海面上に顔を出し、。帝国の繁栄と平和を祈りつつ英霊と共に眠る。
8月2日、東京
司法省
50代の眼鏡の男がある資料をめくっていると突如、ドアを叩く音がしたので入る様に言う。
すると入ってきた刑事は「失礼します。先日、羽田に到着した帝国航空328便に搭乗していた吾孫子直也を逮捕しました!」と言う。
そう憲兵が言うと山辺は眉をひそめて「ん?吾孫子直也と言うとあの吾孫子直也の事か?」と聞く。
すると憲兵は「その通りです。山辺次官」と続いた。
「ご苦労だった。私としても大湊で1年前に起きた戦艦陸奥小火事件を追っていた。確か犯人は崎村数馬。吾孫子直也の息子で、行方不明の崎村義人議員の義息だ…………」と続く。
すると刑事は「それで崎村数馬はどうしたのでしょうか?」と聞くと山辺は「崎村は小火騒ぎの中、主砲塔へ向かい艦そのものを爆破しようとしたが、騒ぎを聞き付け警備を厳しくしていた艦警務隊に射殺されました」と続く。
すると刑事は「そうですか」と言い、山辺の部屋から退出したのである。
バタン!!そう、ドアが閉まると「崎村義人……此奴も確か満州で……」と呟き、山辺は思考に耽りつつ、資料を再び読み漁り始めた。
ともかく鳩島は2人のブレーンを立て続けに失ったとは言え、彼の最大の親友にしてブレーンでもある帝都大学の同級生である大島村丈一郎は未だシベリアに身を潜め、鳩島とともに北海道に理想国家建国を目指していた。