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20話

昭和20年7月7日

北海道登別市郊外

「状況は最悪だ…………」

高台から市内を双眼鏡片手に第11戦車師団司令池田末男少将がそう呟いた。

高台の先には多数のソ連戦車がひしめきあい、こちらへ砲身を向けて進んでいた。


その内訳は42輌のT-34中戦車に29輌のJS-2(スターリン)重戦車であり、それに対して池田の元には室蘭撤退戦(悪夢の様な死闘)の後に厳しい大地(北海道の大自然)を抜けて新たに配備された4式自走砲(※1)7輌とそれを生き抜いた3式戦車3輌と4式及び5式戦車が各2輌に指揮官車として独製戦車を規範とした試製7式戦車1輌しかない。だが彼にはある秘策があった。

その秘策とは3日前に函館へと会議の為に池田が行った際に第1航空戦隊司令山口多聞中将が立案したもので、敵戦車隊への水上爆撃機瑞雲及び晴嵐による爆撃作戦である。

池田は持っていた懐中時計を見ると針は9時を指していた。

「(時間だ……………)各員、配置に付け!」

池田がそう呟くと彼の部下たちは口々に「見ろ!翼に日の丸がついた飛行機だ!」と歓声を上げて帽子を振り、七夕のことを考えつつも各々の配置に就く。


そして…………航空隊が登別市内に突入するとソ連軍の対空砲座が次々に火を噴いて弾幕を形成し、帝国海軍機を迎え撃つ。その射撃により数機の瑞雲や晴嵐が急降下中に対空砲火に喰われて撃墜されていく。だが、対空弾幕を潜り抜けた晴嵐が4発の250kg航空爆弾を投下し、走行中のT-34を2台破壊する。そして爆撃を終えた瑞雲は戦車隊に機銃掃射を加えるべく再度急降下を始める。

最も瑞雲が装備する計4基の20mm(翼内機銃)12.7mm(胴体内機銃)では戦車のぶ厚い装甲を撃ち抜く事は出来ないが、威嚇程度にはなった。

そして上空から鷲が去り、混乱するソ連部隊に対して「各自走砲、砲撃開始!」と池田が命じた。すると戦車隊と離れた場所に展開していた4式14㌢自走砲が一斉に火を噴いた。

着弾した砲弾はT-34を破壊、JS-2にも大きな打撃を与える。

「よし…………良いぞ!」

池田がそう言った次の瞬間、彼が双眼鏡を覗くと急降下爆撃を生き抜き、何とか統制を取り戻した数輌のJS-2重戦車がこちらへ向かってくるのが見えた。

「各車後退急げ!自走砲も後退急げ!敵さんは待ってくれないぞ!」池田がそう叫んだが、扇状の最前列とその左右にいた4式自走砲に対してソ連戦車は容赦無く砲撃を浴びせ、砲弾を浴びた砲兵は皆、四散していく。

「くっ……………」

池田は涙を堪えた。自分に対し絶対的な信用を置き、苦楽を共にした優秀な部下たちを目の前で失うと言う事態に対して。

そして池田少将は無線に対して「退却急げ!皆、生き残るぞ!生き残って全力で反撃する!」と叫ぶと各車から「了解!」と反応が入る。

退却後、池田少将は伊達市で態勢を立て直すことになった。


結局、先日の陸海軍混成航空部隊の奮闘空しく函館空襲を許してしまい、陸軍の登別の戦いもソ連側の勝利で終わり、海軍も奥尻島沖で陸戦隊が壊滅(※2)して、負け続けのソ連軍は久々の勝利を飾ったのだ。


北海道本土や佐渡島での大規模奪還作戦は敗北続きであったが、大島奇襲(※3)でソ連軍の通商破壊作戦は不可能に陥り、来号作戦(※4)などの帝国陸海軍の死に物狂いの作戦の効も奏して沿岸部のソ連戦力は大きく被害を受けていた。

(※1)4式自走砲

搭載艦改修によって海軍で余剰となった50口径14㌢砲を陸軍が買い取り改装した榴弾砲。

現状は軽装甲で戦艦陸奥の副砲を修復した1型9輌のみが作戦行動可能である。

後に重装甲旋回砲塔を持つ4式重自走砲が開発された。

射程24㌔、弾重量39kg

(※2)奥尻島の敗北

詳しくは9話参照。

(※3)大島奇襲

奥尻奪還作戦の前にあった魚雷艇による潜水艦基地奇襲作戦。

詳しくはゆうき先生の作品で。

(※4)来号作戦

岩手沖海戦の前後に実施されたある作戦。

詳しくはくらま先生の作品で。

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