15話
昭和20年10月3日
日ソ艦隊決戦の最終幕がいよいよ迎えようとしていた。
同日14時半頃
遂に合間見舞えた大和以下連合艦隊とソビエッキー・ソユーズ以下ソ連海軍の艨艟たちは遂に互いの至近距離に砲弾を着弾させたのである。
武蔵艦橋
「敵ながら天晴れだ!」
巨大な水柱を見て西田正雄少将を継いだ能村次郎艦長が呟く。
無論この武蔵も大和と同じくただ撃たれているだけではない。
艦長の呟きと同時に火山の噴火の雷鳴に似た響きと爆炎の様な煙が武蔵を覆う。
武蔵は艦隊全体で2番目に位置し、大和に次いで敵へ砲撃を浴びせ、浴びせられている。
いずれ被弾するだろう。能村の予想はすぐに現実になる。
対空見張・観測所
物凄い衝撃が艦を揺らす、そして「左舷機銃群被弾!」と見張兵が報告する。
「やるじゃねぇか……………」
副長で砲術長の俺、高本庄司中佐が25㍉及び40㍉機銃群を見てそう呟いた瞬間、再び武蔵の主砲が火を噴いたのである。
今までにないくらい強い砲撃の衝撃を感じると武蔵は怒っている。俺はそう思った。
暫くすると敵1番艦に火柱が上がり、艦橋側面にあった副砲や高角砲が炎上するのが見えた。
「大和が当てました!」
ある砲術見張員がそう言うと俺は「大和に負けるな!」と叫び再び武蔵は火を噴く。
そして…………
「敵2番艦被弾!」と見張員がそう言うと俺は「だが気を緩めるな、本番はこれからだ!」と言うと「はい」と見張が言う。
俺は目を凝らして敵2番艦を観察すると第2砲塔の砲身1本が折れ曲がり煙が出ていた。
無論、2基は生きていたので、こちらへ発砲を続ける。
そして艦橋基部の機銃群や前部副砲塔に敵弾が着弾する。
それと同時に俺は大和級のアキレス腱、主砲弾誘爆を防ぐべく第1副砲への注水を命じる。
そしてこの武蔵と撃ち合っていた敵艦艦橋が火焔に包まれる。
「敵艦2番艦炎上!」
その報告に周りは歓喜に包まれる。が、俺は冷静に戦況分析と敵艦の観察をする。
とその時だった「紀伊が舵をやられました!」と報告が入る。
俺はすぐさま信濃の後ろを走る紀伊を見る。確かに紀伊は炎上し、速度が低下している。
戦艦に加えて隠れていた巡洋艦からも攻撃を受けたらしい。
下手すれば武蔵も危ない。俺がそう思うと羽黒が武蔵の横に位置し、ソビエツカ・ルシアの向こうに隠れていた巡洋艦の出現と同時に砲撃を始める。
羽黒が巡洋艦を圧倒するが、敵駆逐艦がその巡洋艦を囮に突撃してくるのである。
羽黒は武蔵を襲おうとした巡洋艦が撃破したが、多数のヴェールヌイ級駆逐艦が襲いかかる。
だが羽黒は膝を屈せずに主砲や高角砲、果ては機銃まで火を噴く。
敵駆逐艦の集中砲火で羽黒は瞬く間に炎上する。しかし羽黒は炎上しつつも敵へ砲火を浴びせる。その姿は阿修羅の様だったと武蔵の乗員は語っている。
そして羽黒は沈むまでに2隻の駆逐艦を撃沈、3隻を戦闘不能に追い込み、自らの犠牲と引き換えに武蔵への新たな攻撃を防いだのである。
余談だが、羽黒は海底調査により激しく損傷した姿で海底に沈んでいるのが1995年の5月に発見されたことを東シナ海海戦60周年記念式典を日ロ両国の元将兵が集う戦艦武蔵艦上で慰霊式を行った際にそれを国防大臣が公表している。