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8話

5月3日正午

午前6時の魚雷艇の在泊する港湾地区への1式水上爆撃機による空襲で始まった苫小牧奪回作戦、あ号作戦。同作戦は海からの水上艦艇による艦砲射撃に、三沢・函館の飛行場から飛来した陸海軍戦闘機が空を押さえ、輸送船に乗る陸軍兵士たちは今か今かと上陸の時を待ちわびていた。


それはともかく艦砲射撃による制圧力は恐ろしいものだ。扶桑が放った榴弾はソ連陣地の上空で炸裂するとその破壊力を発揮した。

燃えながら天から降り注ぐ無数のゴム弾は塹壕や戦車を焼き付くし、塹壕の外にいた兵士を一瞬で肉片へと変える。

何よりも恐ろしいのはこの扶桑が有している砲門の数だ。

連装6基12門、合計投射能力は最大で7.65t、それも毎分だ。

ソ連軍陣地

「目標はあの忌々しい戦艦!」

ある大尉が自走砲の車長席でそう叫ぶと扶桑へ向けて砲撃を加える。だが、自走砲と扶桑では扶桑の方が射程が長い。

しばらくすると扶桑が発砲し、その数十秒後に自走砲の上空で榴弾が炸裂。無数の子弾が降り注ぎ、自走砲を大尉ら乗員たちもろとも容赦無く焼き払う。

子弾をもろに浴びた大尉は一瞬にして即死。車内の乗員3名も同じくミンチ肉(・・・・)へとなりかわった。


しかし陸上での戦闘は特に内陸部での戦闘はソ連の方が圧倒的に優勢であった。

多数の戦車や兵士、そして街を潰して建設した塹壕は帝国陸軍及び海軍陸戦隊を苦しめ、街頭の至るところに37㍉機銃が設置され航空部隊を苦しめる。

37㍉機銃の濃密で精密な対空射撃は彗星艦上爆撃機や98式襲撃機を確実に叩き落とす。

青森県青森市

前線作戦指揮室

陸海軍の上級将校や幕僚たちが次々に入る無線情報を地図に書き込み、戦況を分析していた。

「札幌から南下した第31歩兵師団は北東から侵攻して来たソ連軍とソ連軍苫小牧防衛隊に挟み撃ちにされ壊滅、更に池田末男少将率いる第11戦車師団も大きな打撃を受け、室蘭へ退却中です」栗林中将にそう報告したのは西竹一陸軍大佐だ。

すると栗林は「沿岸と比べて内陸部の戦況は苦しいな…………」と呟き、地図を睨む。

すると航空参謀の野崎領一陸軍大佐が「連山による絨毯爆撃で千歳や苫小牧市内の敵を一掃しましょう」と提案してきた。

確かにそれも手だ。だが、住民が逃げ遅れた可能性もある。

故に栗林大将には苦しい決断を迫られた。

しばらく沈黙した栗林であったが、静かに立ち上がり「…………野崎君!君の考えも一理あるが、住民の保護が済んだとは言え、皇国の地を爆撃すると言う搭乗員の事を考えたまえ!」と強硬論を言う野崎を諭すが、反面、仕方あるまいと理解も示していた。

温厚な事で知られる栗林中将ではあったが、この日ばかりは冷たい目付きで野崎大佐を見ていた。

そして…………

30分後。

「司令、最初の攻撃隊が札幌市中央部に到着しました!はやく攻撃命令を!」と野崎が言う。

「…………………」野崎の期待と異なり栗林は黙りこんだままだ。代わりに野崎が「こちら司令代理、航空参謀の野崎陸軍大佐だ。司令部より雷雲爆撃隊、攻撃を許可する!」と言ったのである。

『野崎大佐、許可に感謝する。雷雲隊、これより爆撃態勢に入る!』と連山3機で構成された雷雲隊を率いる本木海軍中佐が言うと連山は爆弾倉を開放し、高雄型重巡洋艦用の20㌢徹甲弾を大幅に改修した125㎏爆弾投下に備えて照準を整える。

連山機内

「照準調整完了!いつでも命令をどうぞ!」と爆撃手が言うと機長は「慌てるな、ゆっくり落ち着いて狙え、敵は逃げないぞ」と続いたが、突如旋回機銃の射手が「機長、上面後方よりヤコブレフ(敵機)です!」と叫び、機長は「追い払え!」と続いたが 、敵機の機銃掃射のほうが一拍はやかった。しかし本木らの機は被弾を免れたのであったが…………

「2号機被弾、高度低下中!」

左を見張っていた西野田庄造上等兵がそう言うと機長の本木中佐は「全弾投下!離脱するぞ」と叫んだが、既に時遅し。敵機の放った12.7㍉機銃弾は本木機の主翼に被弾し、燃料タンクに引火し、主翼で火災が発生。

万事休す。投弾は済んだとは言え、火を噴きながら連山は地上へ降下していくのであった。

それと同時にソ連陸軍の対空陣地から放たれた高射砲弾によって本木らの乗機は砕け散ったのである。

青森県弘前市

前線作戦司令部

無線が途絶えたのを聞き取ると栗林は静かに立ち上がり「作戦失敗か……………」と呟いた。

爆撃作戦は非効果的、そう判明しただけでも良かったと言えるだろう…………栗林はそう思いつつ思考に耽ったのである。

そして栗林を悩ますのは思ったよりソ連軍の対空防衛能力は高くどう対処するか、そこであった。

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