表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
995/1045

杯ノ九百九十五

 寄り掛かっていたはずの胸倉を押し退けるかの様な、強張った細い肩。紫色の眼差しと、下瞼の辺りで弾けた涙の飛沫(しぶき)静馬(しずま)の頬に降り注ぐ。

 「あっ…。」

 そうなのだ。こんな呟きが彼の息遣いと重なって聞こえる程、砕けた涙の粒が彼の頬に届いてしまう程、二人は近い距離に居た。…まぁ、月紫(つくし)は静馬の膝の上に座っているのだから、当たり前の話ではある。それなのに…。

 きっと、二人を包む洞窟の暗闇が冷たくて…優しすぎて…。温もりのない自分の身体の事を、月紫は忘れていたのだろう。

 近づいても、近づいても、彼女は熱を奪う一方。どんなに深く肌を重ねたところで、氷の様なその身体では、静馬を温めてやれはしない。その事を、今、やっと…思い出してしまった。

 抱えていた彼の右手への締め付けが緩んでいく。同時に、くたりっ、芯が抜けてしまった様に肩を落とす、月紫。

 まだ薄目を開けられるくらいには、目の痛みが引いていない。それでも静馬は…多分、太腿に圧し掛かる尻の重みで…彼女の『気持ち』を察したか、

「んっ、今、何か…掛かったよな、温かいものが…。」

 空惚けた口調。『温かいもの』とは無論、頬に浴びた彼女の涙である。

 また静馬に弱気を見られてしまった。いいや、思いっ切り、自分から見せたのだった。…月紫は瞬時に顔色を青白くして…かと思えば、一転、お腹の緊張が解かれた事も手伝って、耳まで真っ赤っ赤。顔中に血の気が行き渡る。

 仮に、そんな月紫の状態を嗅ぎ分けられるとすれば…静馬は手遅れなところまで吸血鬼に成ったといえるだろう。だがしかし、クンクンッと鼻先の匂いを吸い込んだ感想は…。

 「やっぱり、血が掛かった…いや、違うか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ