杯ノ九百七十七
『どうしたの、大丈夫』。そう問いかけよう、横向きにした頭の傾斜を深めようとしたものの…。瞳に宿る光を放すのには、未練があるらしい。
恰も『一番綺麗な姿で、貴方に持たせようと思ったのに』と零すかの如く、月紫は小さく溜息。それでも結局、最高のスポットライトから目を逸らし、
「もうっ、静馬たらまた…ちょっとくらい、我慢してくれたって良いでしょう。」
喋っていて、『何故、我慢されなければいけないのか』と尚の事、面白くなくなったご様子。憤慨し鼻を鳴らす。しかも…。
瞼をほとんど閉じたまま、細かくパチパチッと瞬きを繰り返す、静馬。この表情を見ていたら、居た堪れない。彼の脚に腰かけて居られない心境が、ふつふつと込み上げてきた。
「ごめんなさい…。」
か細い声で呟くと、月紫は心持ち尻を浮かせる。無論、その分の荷重は、静馬の左腕持ちで…流石、『甘え上手』な吸血鬼さんだ。
しかしながら、彼女にそこまでの子供っぽさを発揮させて置いて…。肝心の静馬は、眉間に皺を寄せたまま固まっている。
『ならば、いっその事、目から失った重みも左腕にぶら下げてやろうか』。彼女がそんな思案を始めたのを、察知したのかも知れない。
「わ、悪い…違うんだ。そう言う積りじゃなく、本気で…目が…。」
静馬は弱弱しくも、慌てて口を利く。…よろよろと、彼女のお腹の辺りから離れていく左手。
そんな動作に伴い、彼の腕が、月紫のお尻が更に持ち上がる。足元をふら付かせながら、すぐに勘付いた。
(この子、目を擦ろうとしている。…私の瞳に目が眩んだくらいで…大袈裟な…。ううん、とにかく、止めないと。)
ドスッと思い切り、静馬の太腿へお尻を落とす、月紫。




