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杯ノ九百六十七

 自分を見つめる静馬の物欲しそうな視線…とは、少し違うが…熱視線に、月紫(つくし)は右腕の『羽ばたき』を再開させた。

 照れた様子でやや背けた顔。(あたか)も湖面をかすめる白鳥の翼の様に、その小さな右手で洞窟の暗がりをなぞるだけなら絵にもなるだろう。しかしながら…この自由な翼が唐突に跳ね上がり…紫色の瞳を(えぐ)り出すのなら、話がまったく違ってくる。

 だから静馬は、彼女の右腕が落ち切る瞬間を狙い…左手で真っ暗闇を掻き分けた。

 「これは、つまり…。『要らない』って事よね。私の瞳が…。」

と、自分の右手を掴んだ彼の左手に目を落とし、問いかける、月紫。随分とまた、答えを急いだ物言いだが…まっ、見たままの構図を言葉にすれば、そう言う事になるだろうか。

 『いっそ抉り出してもらった方が、まだしも、穏便だった』。そんな風に思えてくる程、険の籠った紫色の瞳。ここで何と答えるかが、分かれ道となる。さて、彼はどんな策を携えているのやら…。

 静馬は軽く俯くと、吹き出す様に笑気を漏らして、

「もらえるもんなら、もらうさ。人に取られるくらいなら…なんて、入れ込んでいる訳でもないが…あんたの瞳は綺麗だから、『くれる』と言うのを拒む理由もない。ただな…親父の意見はどうか知らない…知らないにしろだ。」

 顔を上げ、月紫の目を見つめ、

「俺から見てその瞳は、あんたの顔にあるから価値がある。まっ、目玉だけ渡されても手に余る…そう言った部分があるのも本音だがな。」

 間の取り方、目線の使い方、息のペース配分。彼女のこの目付きを前に、よくやったと言えるだろう。

 だがしかし、こんな言い回しをしたからには…。

 「『価値』と言うのは、どういう意味。」

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