表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
962/1045

杯ノ九百六十二

 大きく息を吸い込み、吸い込んだ分乱れた息を整えて、

「あんたにそう言ってもらえれば、俺から親父に突っかかっていく理由はないな。まっ、そもそも、目玉は二つあるんだ。何だったら、親父と、俺で、あんたのお目目を仲良くはんぶんこ…なんて、解決策もある。二つとも目玉取られて、あんたが平気だったらの話だけどさ。」

 話をしている内、彼の息遣いも随分と穏やかになった。…これで、胸倉に押し付けられた肩が離れてくれれば…いや、体重をほんの少し反対方向へ移してくれるだけでも…望み薄だろうが…。

 月紫は消えそうな頬の感触を呼び戻す様に、右の掌で虚空を撫でると、クスリッ。苦笑を漏らして、耳元にある肩に頭を預ける。

 「ちゃんと、覚えていてくれたのね。私の瞳を褒めてくれたこと…ありがとう、静馬。」

 密着した頭でロックされて、いよいよ、静馬の胸倉から彼女の肩は離れそうもない。ひらひらっ、洞窟の暗闇で遊ぶ右手も『隙あらば』と、(たくま)しい首根っこを狙っているのだろう。

 誰よりも身近でその気配を感じている。身をすり合わせるその瞬間、月紫の頭の中に『加減』の二文字は存在しない。あっても、ひどくあやふやなもの。

 そう知っているはずの静馬が…彼自身、意外な事に…胸倉で彼女の肩を押し返しながら、グッと身を乗り出した。

 「『覚えていてくれた』って…俺があんたの瞳を褒めたのは、つい今しがた…。それとも…親父に対しての…。」

 『だからと言って別に、怒っている訳じゃない』。そんな言葉を続ける様に、伝える様に、唇を結んだ、静馬。彼女の重みに身を委ね、また少し、背後にいる『誰か』の方へと仰け反った。

 ゆっくり下ろす右手と共に、全身の力が抜けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ