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杯ノ九十六

 荒削りの岩壁を転げ落ちる、石塊(いしくれ)の立てる希薄な音は水溜りに溶けて行く。

 そして、それらの音の外側に耳を澄ませば…聞こえてくる…耳鳴りの音。

 その音に意識を集中すれば集中するほど…地鳴りの轟音も、岩壁が崩れる空疎な音たちも背景に消え、青年の頭の中に耳鳴りの高音が充満していくのだ…。

 そうして、自分の耳から零れ出す様な音を聞き続けている内に、童女の首から上を注意していた青年の瞳が、ぼんやりと、彼女と言う確固たる焦点を外れていく。しかしながら…危機の背後にある物にこそ、見るべき実情が表われている場合もある…。

 青年は目を奪う童女の金髪の…その奥に見える味気のない岩壁を見つめる。

 (いつからだ…いつから地響きは収まって居たんだ。それに…これは耳鳴りじゃ無い。こんな事を…吸血鬼にはこんな真似を起こせるのか。)

と、静まり返った…否、人の耳には届かない音色に満たされた周囲を見渡した。

 先程と同じ様に、あらゆる音が消え失せている。ただ一つ…耳鳴りの音だけを覗いて…。

 「そうか、欠伸(あくび)か。」

 青年は声に成らない声で、そう呟いた。

 なるほど…彼の言いたい事はつまり、先程の無音と、現在の無音の違いは…吸気と、呼気との違いであると言う事の様だ。確かにそれなら、先程と、現在では、青年の聴覚に及んだ影響に相違がある事も頷ける。

 それでは、青年と一緒に順を追って、童女の呼吸の流れを推察してみるとしよう。…ただ、状況が切迫しているので、言うまでも無く速やかに…。

 呼吸はその文字が通り、『呼』から、要するに吐くことから始まる。…そう、皆さんのご想像の通り、切っ掛けは…、

(俺の押し込んだ杭だな…それで、欠伸をした。)

 杯ノ九十六を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)

 この小説を書いていると、我ながら『よくぞ、こんな面白いこじつけ方するなぁ』っと、感心する事がしばしばあります。

 文章を書く上で指針になるものが、『前話のまでの内容』だけ、それでいて文脈を外さん様に努めなければいけないし、伏線もどきも配置せねば後々必ず手詰まりを起こすだろうから…っと、試行錯誤してみたり、適当に筆を進めてみたりで…その結果として、こういう考えているのだか、考えて居ないのだか解からん文章が出来あがるのだから、不思議なもんです。ちっとも褒められた話じゃないですけどもね(^v^)

 読んでやって下さっている皆様には、『おいおい、それは展開的に無理があるだろ』とか、『この伏線…置きっぱなしで拾ってないなぁ。伏線中毒と自称した割には口ほどにも無い』とか、あるいは、『なかなか上手いこと立ち回っているじゃないか』などなど、生温かい目線でもって、『貴女を啜る日々』の不可思議さ、いびつさを楽しんで頂ければ幸いです。

 それでは、また…アンバラスに積み上がった積み木の、その更に上に積まれる一つとなる…次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう

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