表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
959/1045

杯ノ九百五十九

 穏やかな語り口、一歩引いたところから投げかけられる感情。やや冷笑的にも聞こえる彼の問いかけに、月紫(つくし)は軽く唇を結び、少しだけ目を細める。それでも、見つめ返す事を止める選択肢はないらしい。

 (あたか)(とげ)の連なる(つる)を握りしめる様に、知った上で掌を穴だらけにしていく様に…。痛みとも、緊張とも付かない『気持ち』が、彼女の顔から血の気を奪う。しかし、表情は涼しげなまま。静馬(しずま)を見つめる眼差しは…緩まるどころか、一層、強く輝くのだ。

 彼女には適わない。そうと知りつつも、気取って、薄笑いを浮かべていた、静馬。…が、そろそろ、根負けだろう。紫色の瞳の放つ、清廉にして、独善的なまでに彼を思う視線で…苦笑い。頬か、顎の辺りで追及をかわすかの如く、小首を(かし)げる。

 その弱り切った彼の様子を見て…いいや、見なくたって、彼女には解っていた。

 どんな皮肉があろうと、どんな棘があろうと、月紫は彼に触れる事を止めない。それどころか、自分が傷つく事さえ構わずに、ギュッと彼の『気持ち』の芯を握りしめる。彼のねじ曲がった性根を締め上げる為に…そこは…そうするであろう事は…。

 (信頼してくれているのよね、この子も…。何のかんの言っても、ここまで来た自分に応えてくれるだけのものを、両親の過去に踏み入っただけの価値を、静馬だって求めている。要するに、結局…私を母親扱いしているのじゃない。)

 彼の心の棘で、自分から掌を傷付ける様に、我が身を抉る様に…月紫は目付きを鋭く尖がらせ…。だが、胸苦しくも、充足感溢れる痛みに溺れながら、はたと気付いた。

 (この子がそんな…容易く、甘ったれてくれるかしら。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ