杯ノ九百五十七
「実は…ねっ。私も自信はあったりするんだ。あっ、貴方たちが褒めてくれた…勇雄と、静馬が褒めてくれた瞳ほどじゃないのよ。けれど…ねぇっ。この国の言い習わしにもあるでしょう。『命の様なもの』って…。」
くすぐったそうに目を細め、少しだけ肩を竦める。含み笑いも、身体も、小さく纏めて、『気持ち』の一雫も零さぬ様に…。彼女の浮き立つ心持ちが、見て取れる。
目下にそんな『不発弾』を抱えた静馬は、困惑と、背筋を這う生ぬるさを隠して、
「そう…だろうな。」
笑い返したのはともかく、『安堵の吐息』は芝居っ気が過ぎたな。まぁ、『彼女に余計な熱を加えたくない』と、『出来る事なら頬の中の熱を逃がして欲しい』と思うあまりの、過剰反応だろう。
静馬の慎重さを欠いた態度に、月紫は…紫色の瞳を見開き、瞳孔を縮め…ニンマリッ。さも楽しそうに微笑む。
「やっぱり、静馬もそう思う。…本当かしら。私を茶化す気も起きなくて、ぞんざいに、当たり障りのないこと、言っただけじゃないでしょうね。」
「いや、滅相もない。」
「その割には…怪しいわねぇ。まっ、信じさせてもらう…そういう事にしておくわ。」
あっさり、『信じるか、疑うか』、『Yesか、Noか』を選ぶほど初心な娘とは思えない。思えないが…クスクスッと屈託のない笑い声を漏らす度、細い肩が揺れる。こうした姿を見れば、ご機嫌は麗しいままの様だ。…一先ずは命拾いしたか。
しかしこの『不発弾』、感情の沸点が低いのやら、高いのやら、解らないところもある。依然として、予断を許さない状況に変わりない。
まぁ、基本的には、取り扱いを間違いさえしなければ…。




