表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
947/1045

杯ノ九百四十七

 『子供の彼』は今、懸命に言葉を探しているのだ。

 右手で支えた頭の心地良い重み…この重みを手放しただけで壊れてしまいそうな、穏やかな寝顔…穏やかさに全てを委ねた様に、死んだ様に、ピクリッとも動かないまつ毛…死相ですら魅力を奪う事の出来ない白い肌。首筋に走る青い静脈…。おっと、それから忘れてはいけない、ふくよかな胸も…。それら美点の結晶たる麗しき女性(ひと)

 そんな造型を言い表す為の台詞。これだけの美しさに劣らない完璧な台詞を…自らの内に求め、口を(つぐ)む。…と、こうした具合で、平たく言葉を吐ける心境じゃない彼に代わり、言ってしまえば…。つまり、『子供の彼』は、『大人の彼女』の寝顔に見惚(みと)れているのだ。勿論、『大人の』胸元にもである。

 ところで、女とは男の視線に敏感なもの。並みの女と比べれば、人生の、二つ、三つ分くらいは年季の入った彼女だ。相手が誰かはさて置き、何となーくっ…静馬のこの、『天秤(てんびん)に掛ける』かの如き、眼差しに気付いたのだろう。…特に、胸元の重さなど…。

 突然、例えそれが頬であれ、『膨らませる』のに気後れが生まれたか。息を止め、恨めしそうに静馬を睨む、月紫。やや猫背になっていた身体を伸ばし、胸を張りながら、『ぺったんこで悪ぅございました』と言わんばかり、彼の胸板に(しぼ)んだ頬を擦り付けた。

 流石、すべすべな肌をしているだけあって、シャツと擦れても微かな音すら聞こえない。しかしながら、摩擦と、自分の子供っぽさで、顔の熱くなる思いをしただけの事はあった様だ。

 胸をつく感触と、そっぽ向いていても伝わる気配が…何と…静馬の瞼の裏の、『大人の彼女』の頬を赤く染める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ