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杯ノ九百三十七

 数百年の年輪を感じさせない、ふくよかさ、光沢。それでいて、酸いも甘い噛み分け…時に、鋭い牙をたてながら…磨き抜かれた瞳は、『ブリリアント・カット』とも、『カボションカット』とも、『ローズカット』とも違っている。

 ()のままで至上の(きら)めきを(まと)った造形美は、神の手のみが成し得る仕事だろう。そんな、この世に二つとない『宝石』が、二つ並んで輝いているのだ。

 しかも、その輝きを一身に受けるなんて…宝玉を数珠繋(じゅずつな)ぎにしても叶わない…何百年に、一人か、二人が浴せる幸運。…それを…。

 『瞬きしないものか』と願いつつ見つめ返しているのだから…贅沢にも程がある。だから、静馬(しずま)、自分の置かれている状況を喜んで…いつまで待っても、目の前の強情っ張りは瞬きなんかしない…諦めて言ってしまえ。身に覚えがなくても一言だけ、『親父を参考にしました』とな。

 静馬は意を決したかの様に、深く息を吸い込む。それから…フッ。短く息を吐いて、薬指に絡まり残っていた毛筋を吹き飛ばす。

 「こうして、おでこが半分隠れているのも悪くないな。親父にそれはもう、リクエストされたんだろ。髪型はそれこそ。」

 頑張るな、この男も…。流石の月紫(つくし)だって、こんな気骨を見せられれば、眉の緊張も緩むというもの。

 「いいえ。瞳は気に入ってくれていたから、熱心に、億劫(おっくう)がらずこまめに、勇雄(いさお)も褒めてくれた。言葉で好意を表してくれたわ。」

と、チラリッ。数多の男に惚れ込まれたであろう瞳で、静馬を見据える、月紫。おっしゃりたい事は、解らないでもない。

 (若かりし日の親父を言い負かす、ここがチャンスだぞ…と。)

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