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杯ノ九百二十四

 白魚の様な月紫の指が色めき立つ。あるものは、力を失い…またあるものは、シャツの肩に朱い影を引く…。

 瞬きも出来ないほど瞼を強張らせ、それでも、

(この子は見ている。私の目の中に、この子自身の表情を…。だから、曇らせてはいけない。この子が辛い『気持ち』を表に出したなら、それを受け止めて上げれば良いわ。けれど、この子は笑っているのに…私がその笑顔を曇らせちゃいけないのよ。)

 鼻を鳴らしても、不機嫌な態度を取っても、やはり、月紫は彼をよく見ている。『貴方はここに居る』と伝えるかの様に、大きく、大きく、紫色の瞳を見開いた。

 『自分が相手の目の前に居る』。それを確認する上で打って付けのお目目に、眼差しに…。静馬は頬の緊張を緩め、やわやわと、可笑しげに、作り笑いを(ほぐ)し始める。

 「ついでに言うとだな、母さんにも見せたこと…なかったと思うんだ。少なくとも俺が、母さんの前で今の…顔が緩んで、上手く戻らないが…。あんたの言うところの、『子供が作り話を報告する顔』…見せても、穏やかだった。笑って、俺の話に耳を傾けてくれていた。」

 一瞬、彼の口元に戻りかけた…固い…やんちゃな笑顔。

 月紫は、『辛い気持ちを受け止める』と呟いた通り、心に決めた通り、しっかりと瞳を開いたまま…。しかしながら、やや意気込みが強すぎたか。全ての心痛を吸い込もうとするかの如く、瞳は爛々(らんらん)と輝き、唇は薄ら笑いを浮かべる。

 「へ、へぇ…。」

「仕返しの積りだろ。『ついでの話』なんて、()いちゃいないのに…てか。」

 「んっ…んんっ…ううん、そうじゃないの。静馬だってちゃんと、聖子に…お母さんに笑顔を向けていたのねって…安心して…。」

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