表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
919/1045

杯ノ九百十九

 見つめているだけで涙腺が(とろ)け、涙が溢れ出しそうになる笑顔。静馬(しずま)もなお一層、瞼を落とし、目を細め…おっと、危ない、危ない。彼女を覗き込むあまり、額と額がぶつかる寸でのところだった。

 (いか)めしい顔付きのまま、再び、距離を取る二人の視線。張り詰めても、(たる)んでもいないそれを十分にしならせ…。月紫(つくし)がさも残念そうに鼻を鳴らす。

 「不謹慎とは言わない。けれど、少なからず、無粋だわ。なぜって、『夢物語』の中の私は人魚だったのよ。それなのに、吸血鬼の…血生臭い現実を思い出させたりして…酷いと思わない。」

 彼の心臓の鼓動を確かめる様に、小首を傾げる。それから、ツンツンッと腹を探るのは、右肘の先。役目の回って来なかった右手は、相変わらず(てのひら)を上向かせて…まだ何やら『使い道』があるのだろうか。

 静馬は、いつ突き刺さるか解らない、気紛れな肘に備える。新月の晩の引き潮の如く、深く息を吸い込み、そして、

「半分は魚なんだ、生臭いのはしょうがないだろ。」

 音のない潮流に腕を取られたか、ピタリッ、背後を小突いていた肘が止まった。

 これは潮目の読み違いようもなく、嵐の前の静けさであろう。心中で大きな泡を食いながら静馬も、息を止めて身構える。

 一連の水位を…もとい、推移を見守っていた月紫は、ゆらりっ、揺られて小首を反対へ。

 「ふーんっ。」

 船縁から夜空を臨む様に、紫色の瞳が斜めから静馬を見上げる。その死角を突いて…ツンッ、ツンッ…意外なほど優しく、彼の腹を肘の先がノック。

 「『吸血鬼と人魚にはそう言う共通点もある』…と、私に言ってくれようって…企んでいたわけね。なるほど、なるほど…。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ