杯ノ九百七
また嫌に、性質の悪い策略を思い付いたものだ。しかし、ピクンッ、ピクンッと、細い眉が動いているのを見るに付け…彼女の中で未だ、羞恥心と、企みが葛藤している様子。
第一、いい恥をかいたとして、それに見合った効果は得られるのだろうか。
(…それに、恥も外聞もかなぐり捨てる覚悟があるのなら…引っくり返ってお尻を丸出しにするより、『死なないで』と泣いて縋っても一緒なんじゃ…。あっ、泣いて縋るのはもう試したけれど、通用しなかったのよね。そうすると、お尻も…やっぱり、見せるだけ損かしら。…まっ、効果がなくても、見せるだけ見せてみるのも…。ううん、『尻軽女だ』と、『こんな女が父親の恋人だった』のかと…幻滅されるかも知れないし…。そもそも、私の裸を見た反応が、今一つなのよねぇ。そんなにも貧相に思われているのかしら…今後、この子と過ごす時間は、否応もなくこの格好なのだけれど…。まぁ、もしかしたら、『あまりの造形美で、女性的な魅力を感じるのが遅れている』と言うことも…この洞窟を出たら違う反応だって、期待は…出来ないわよね、きっと…。はぁっ、どうして、『嫌らしい目付き』なんて言ってしまったんだろう。もういっその事、二人で、朽ち果てるまで、ここで抱き合っていようかな。)
考えても考えても、ズルズルと先の見えない月紫の黙考。いいや、正確には黙考ではないな。
彼女の眉が上下する度、長い長いロープをしならせるかの様な音が…うーんっ、うーんっと、渋いうめき声が漏れ聞こえる。
…にしても月紫さん、『お尻を丸出し』とは一体、どんなポーズを彼に見せつける積りだったのやら…。
眼福に与る機会を逃したとは露も知らない、静馬。




