杯ノ九百
割合、本心から高い評価を得たと…いや、正当に査定されたぞと内心、はしゃいでいるみたいだな。
深々と頭を垂れて頷く、静馬。直角に下がった視線から胸元を隠すかの様に、月紫は右手でシャツの首を摘み上げた。
「焚き付けたのは私だけれど、でも…ちょっと、簡単すぎないかしら。人魚なんて…あーっ、暑い、暑い。」
この岩肌のただ中で、暑いはずがないだろう。…と言う台詞は、静馬が飲み込んだのだ…読者諸賢に置かれても、どうぞ、勘弁してやって欲しい。
彼に見せているのか、隠しているのか。シャツをパタパタッして喉元を仰ぐ。月紫のその照れた顔は、実際、熱っぽく上気して見える。しかも感心に、両脚とも膝は伸ばしたまま。
静馬はきめ細かな首筋を、彼女が仰ぐ度に血で染まっていくシャツを見つめ…思う。
(親父はよく、こんな…やっかいな女と付き合って居られたもんだ。これはこれで、家族を選ぶ決断をしたのとはまた別に、男として尊敬できる一面…として、良いのやら、悪いのやら…。あるいは、悪いからこそ、尊敬できるのか…うーんっ…。)
心中での唸り声が、覗き込む様な眼差しとなって顔に表れる。それは、見方によって厳しくもあり、スケベにも見える目付き。
月紫は微笑みで、一層、口の端を引っ張り上げる。そして、とても人魚姫とは思えない、牙と言う片鱗を垣間見せながら、
「確かに、はぐらかされてあげるとは言ったわよ。」
嬉しさと、物足りなさを交互に弄ぶ様に、首を右へ、左へ、傾げ出した。
視界の中を、金髪がゆさゆさとやり始めたので…静馬の意識も揺り起こされたらしい。
「んっ、あぁっ。」
彼のそんな生返事でさえ、紫色の瞳には気恥ずかしさの裏返しとしか映らない。




