杯ノ九
だって、その通りであろう。風が通り抜けられるだけの隙間を見つけたとして、それが、どうだと言うのだ。
ここは戦時中には既に建てられていた歴史ある…そして現在も、その歴史の重みにさらされ続けている館なのだ。そんなものは単に、そこらの壁に節穴が有ったとか、青年が気付かなかっただけで、天井近くの円形の窓のどれかが割れているかしているに過ぎない。当たり前の思考を働かせれば、そうに決まっているのだ。
そんな程度の事は、青年にも容易に想像できる事であろうに…もしや、青年はこの期に及んで、この先へと踏み込むことを躊躇っているのではあるまいな。…それは著者としても、些か困りものなのだが…。
しかし実のところ、青年の本心は…著者などの様なしょうもない心配とは違い…まさしく『神風』を待つ思いであった。
青年は風の過ぎ去った入口を探しながら、ともすれば大げさに成りがちの息遣いを、唾液を呑み込む音を必死で押さえ、その瞬間を、全身を耳にして待ち望んでいる。
そして、その時は、青年が想像したよりもずっと鮮やかな…そして、仄暗い音色として訪れた。
青年の緊張の糸に引き絞られたかの様に、雨の音が止む。それから、青年の待ち焦がれた風が大階段を這い上がってきた。
風同士がこすれ合い、掠れた口笛の様な音が青年の耳元を通り過ぎていく。しかし、青年はまだ動こうとしない。
瞳を閉じて全神経を次の音へと集中しているのだ。
真っ暗な視界…閉じた瞼の下で懐中電灯の光をぼんやりと感じながら…青年は確かに聞いた。
この部屋の淀みに交じること無く、風がどこか…こことは違う場所へと吹き抜けていく音を…そして、その後に続いた、ギギッという…木材の軋む音を…。
きょっ、今日も七百字ぴたり…それにしても喉が…喉が渇いた…。
あっ、別に、九話目にしてまだ吸血鬼が出ないからって、梟小路が吸血鬼化した訳ではありませんよ。
梟小路はたいてい、この小説の、その日に投稿する分をその日の朝に執筆しています。そして出先から帰って、作品を投稿する直前にこの後書きを書いています…普段なら…。
しかし今朝は、余りにも喉が渇いた為に、この上顎に舌のへばりつく感覚をお伝えすべく、朝の内にキータッチしている次第です。…ううっ、昨晩は、ウーロン茶を沸かすのを素で忘れていた…。
皆様は、梟小路の様なヘマをやらかすことは無いでしょうが…どうぞこまめに水分を取って、熱中症にはお気を付け下さい。
それではこの次の、梟小路の『潤い』ある文章でお会いしましょう。一読、ありがとうございました(^v^)




