表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
890/1045

杯ノ八百九十

 苦汁を絞り出すかの如く、一層力が籠る眉間。もう薄目すら開けてはいられない。

 彼の苦しげにも見える面持ちへ、月紫(つくし)は伏せたまつ毛を撫でる様に。

「静馬…。」

 寂しそうな声。瞼を持ち上げて盗み見るまでもなく、どんな顔をしているのか解る。

 だから静馬は…やっぱり、ちょろい男の代表だな。口の端をまた皮肉っぽく吊り上げ、軽やかに笑みを浮かべた。

 「あんたには敵わないな。」

 一言に深く、思いを込めて…、

(胸を抉られたのはあんたで、埋め合わせをしないといけないのは俺なのにな。)

 瞼を閉じたままで、薄皮に包んだままで伝えきれない分は、右目を開いて、もう一度だけ、

「敵わない…。」

 胸のつかえごと吐き出したら…さぁ、彼らしく、ユーモアたっぷりに行く番だ。半分ほど覗いた右の瞳で、(いぶか)しそうに、月紫の顔を見据える。

 「『血に飢えています』と言わんばかりの牙震わせて…それ見せられたら俺の、『嫌らしい目付き』なんて形無しだ。参った、参った。」

 そう投げ遣りに、多少芝居っ気が強いのには片目を瞑り…。とにかく、静馬は難しい台詞を言ってのけた。

 すると、どうなるか。言うまでもないが、彼の右目に満足感あふれる口元が映る。そして、小さな唇は、チラリッ、チラリッと牙を見せつけながら…声にならない声でこういうのだ。『あーあっ、言ってやんの。私の為に言ってやんの』。

 静馬はそんな笑顔を、『はいはい、そうですよ』とあしらう様に右目を閉じる…含み笑いで…。これを見た月紫さん、負かしっ放しでは女が(すた)ると、咳払いを一つ。

 「まっ、当然ね。目配せ一つ、表情一つ作らせても、年季が違うもの。けれど、静馬の顔だって、悪くはなかったわよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ