表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
853/1045

杯ノ八百五十三

 大概、顎が疲れ始めたのだろう。歯を彼女の爪の上に置いて一息。調子を取り戻してきた笑顔へ一瞥(いちべつ)くれると、静馬(しずま)は先程までより流暢に続ける。

 「今、あんたが飲ませたの…さっきまで足元に溜まっていた血だよな。」

 何度か、カチッ、カチッと爪を噛む。その感触に区切られながら、順を追って思考をまとめながら…月紫(つくし)はようやく、彼の言わんとする事に気付いた。

 『しまった』と、薄く唇を開け、息を飲む。そんな彼女へ、静馬はなおも続けて、

「本当、大した事じゃないんだが…。俺の履いている靴、ジーンズも…ここの水堀を潜っているとは言え…多分、砂塗れ、埃塗れなんだよな。まぁ、だからって…指に付いた血を舐めた程度で、腹を壊すとは思わないけどさ。…おっ。」

 彼が話し終わる前に、月紫は黙って指を引っこ抜いた。

 それを(わざ)と噛み止める。…などと言う真似は、流石に、静馬もやらかさなかった様だが…しかし…。

 「やっぱり、俺に人間止めさせた事…後悔しているんじゃないか。」

と、皮肉な言葉と、曖昧な笑みを浮かべる口元。

 月紫は引っ込めた左手を、軽く…叩きつけるかの如く…血溜まりの中へ。そして、紫色の瞳を逸らす。

 「他に取るべき手段がなかったのだもの、後悔なんてしないわ。言っているでしょう、私だって…。」

 のったりと重苦しげな語調。だがしかし、はっきりとした意思を感じさせもする。

 『気持ち』の重みで吐き出し切れなかったものを、溜息に変え…。月紫は少しだけ煩わしげに、

「それより、蚊の話…聞いて上げるから、そっちを進めなさい。」

 「あぁ、そうだった。…じゃあ、お言葉に従いまして…満更、俺にも、関係ない話じゃないしな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ