表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
848/1045

杯ノ八百四十八

 そのウインクが、頬っぺたの芯まで響いたか。ギュゥッと右目を固く閉じたまま、反対に、左の口の端では不敵な笑みを浮かべる。

 「出し抜けに…いきなり…こっちの頬を霜焼けにされたみたいで…。血の気が戻ったかと思えば、ヒリヒリッ、ヒリヒリッ、痛いのなんのって…。」

 話の途中にも、目元から流れた血の筋の些細な刺激に、大袈裟な痛がり様。そんな素振りに、月紫は左手を彼から離し切れず、近づけられもせず…まだ(てのひら)に残る温もりを求め、少しだけ指を丸めた。

 「確かに…私は奪ってばかりだわ。静馬(しずま)から両親を奪い…。」

「こっちは、奪われた積りなんて更々ないんだがな。家族を、夫を、恋人を…取ったの、取られたのって話は、あんたと、母さんの問題だろ。俺はその恨み辛みの、代役としてきただけで…。したがって、大義名分もない真似をした報いに…あるいは、罰として…あんたに命をくれてやろう。本音は、便乗して、あんたに殺されるべく企んだと…。」

 頬を痙攣(けいれん)させ、いけしゃあしゃあとのたまった、静馬。右目も薄らと開けて、自分と同じ様に血で汚れた彼女の顔が見えている。何とも言えない表情を浮かべたこの顔が見えていて、よくぞ、最後まで語り終えたものだ。

 こうまで好き勝手言わせて、話の主導権を『奪われて』…。それでも月紫が何も言い返さないのは、本心から、『自分は多くのもの奪い取った』と思っている。その自覚ゆえであろう。

 静馬は真っ直ぐに、血塗られた彼女の顔を、『気持ち』を見据えた。…そして、視界の端で戸惑っている小さな手に、差し出すかの如く…軽く首を傾げ、真っ赤な頬を寄せる。まるで、『今が、抓る時だ』と促すかの様に…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ