杯ノ八百十四
冴え冴えと輝く、紫色の瞳に映しても…。
見つめた光景を優しく抱き寄せる様に、月紫は少しだけ瞼を細める。唇もゆっくりと閉じ、まるで『上品な笑い方だって出来ます』と言わんばかりに、ニッコリ。
静馬は、『承知していますよ』と小さく頷いて見せてから、言葉を続ける。
「あんたの美貌、可憐さは大したものだ。ホント、よくぞそこまで装っていられるもんだと、感心するよ。しかしな…いや、あんたの顔に文句を付けようって訳じゃないから、睨まなくて良い…睨んでいたいなら、それでも良いんだが…。」
小さく咳払いを一つ。頭の中で話の順序を整理し直し、
「とにかく、人間の女にだって、宝石の似合う…装飾品を引き立て役にする様な美人はいる。あんたに劣らない造形をした人間もいるはずだ。けど、あんたのその瞳…そうまで光り輝く瞳を持った人間はいない。」
彼の話の合間、不意に、月紫が口を開く。何かを言いたそうにまた、目を細め…だが、止めたらしい。彼女はやはり、彼の言わんとしている事を知っているのだろう。
少し考えた後、再び、静馬は喋り始める。
「どんな貴婦人も、どんな大女優も…『お姫様』を演じる事は出来る。容易く光り輝ける。それでも、あんたの瞳は…モノが違うって言うか…特別なんだ。」
と、そこまでテンポよく褒めておいて…ウプッ。やや吐き気がぶり返してきた様子の、静馬。言葉のどこかに、引っ掛かる表現でもあったのだろうか。
月紫は心配そうに…かつ女の勘で面白くないもの感じ取ったか…怪訝そうに顔を曇らせる。
そんなわずかに険の籠る表情を向けられ、静馬は…まさか、露骨に復調して見せるほど馬鹿じゃない。まずは大きく深呼吸。




