杯ノ八十
青年は安息の眠りを汚した事を詫びる様に、棺に横たわる童女の前で頭を垂れて、
「親父の恋路を踏み荒らしてやった。扉を壁に塗り込んでまで、人目から隠されていた寝床に土足で上がり込んだ。あまつさえ、棺桶を暴き、中に眠るこの娘に…未だに、とても親父の思い人だとは信じがたいけど…この娘の口に指まで突っ込んで、吸血鬼がこの世に存在している事を確認した。…俺にも良く解かったよ。これで俺も、誰に偽ることも無く、父さんや、母さんが見ていたものを…ずっと、死ぬ瞬間まで見つめ続けていた世界を信じられる…。二人の背負っていたものを肩代わりしてやれそうだよ…俺に死が訪れるその日まで…。だから、もう、『誰かを傷つけて』自分の辛さを紛らわすのは止めにしよう。」
青年はそう言うと…焼かれた様な痛みにヒリ付く…右肩を摩った。
少し楽になった右腕を上げ、青年は杭の表面に浮かんだ、怨嗟の感情に歪んだ木目を見やる。
「これ以上、生きているかも、死んでいるかも解からないこんな小娘を辱めたとして、それが何になるって言うんだ。…祈ってやろうぜ。この吸血鬼が、長く、長く…眠り続けていられる様に…。悪夢に何てうなされて、決して起きてきてくれるなよってな。」
と、青年は白木の杭を童女の胸元の方に差し出して、
「これはもう、俺が持っていても仕方がないものだから、あんたにプレゼントするよ…吸血鬼様の永久なる眠りを騒がした詫びにな…。魔除けにでも使ってくれよ。」
そう言って、冗談交じりに笑いを零しながら、青年が彼女の胸の上に杭を寝かせようとした。
…それは、気脈が通じたという奴だったのかも知れない。
杯ノ八十を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
『貴女を啜る日々』も今回をもって、遂に八十話目。これも読んでやって下さる皆様のお陰だと、梟小路も深々と感謝しておりますm(__)m
元を質せば、『猫の居る縁側』としての執筆活動を止めた途端に、生活が麻雀漬けになった…その生活リズムを正常化しようと『梟小路』として執筆活動を再開したのが、そもそもの始まり。
手を替え品を替え、自分に文章を書き続けるように仕向けた甲斐もあり…平日の夜に雀荘に行かなくなったし、オンラインゲームもしなくっなた。今、麻雀と言えば、友人と卓を囲むことくらいと成りました。
この『出来る限り毎日更新』の作品も八十話を数えた事で…そろそろ、リハビリも完了かな…いや、むしろ、ここから気を引き締めるべきですよね。丁度、もう少し執筆ペースを上げたいなと、こっちの活動にも欲が出始めたところだったりして…どうしても、平日は、一日四千文字の壁が越えられない…休日は、二千文字くらいしかいかないしなぁ(^v^)
それでは、また…どんなに執筆ペースが上がろうとも、本作は七百字ぴたりな、次回の『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。




