杯ノ八
そうだった。青年はここまでに、山を登り、鉄作門の錠前を叩き壊し、一枚板の扉を蹴破って来ているのだ。彼が疲労困憊の状態だったとしても、まったく不思議はないのだ…。
青年は、後ろを振り返り、扉から入り込む雨雲の薄明りを眺めながらこの場に座り込んでしまいたい衝動に駆られた。だが…、
(ここ身体を動かすのを止める訳にはいかない。…そうだ、俺には…俺が朽ち果てるのにはもっと相応しい場所が有るはずだ…。俺はそこに辿り着く為に、ここまで来た。)
と、青年は再び両手で階段を掴むと、上へ、上へと続く石段だけを見ながら、一気に二階フロアまで這いあがった。
青年が最後の一段を乗り越え、立ち上がったそこは洋館には有りがちな中二階。恰も、ベランダの様に、壁から通路が迫り出しているかの様な構造になっていた。
青年はその中二階に上がってから…まさか、ズッコケたのを見られたのが恥ずかしかった訳でもなかろうが…正面のニヒルな笑顔には目もくれずに、キョロキョロと何かを探している。
長い通路に敷き詰められた高級そうな赤絨毯。それに靴底の泥を、埃を塗りたくる様に、何度も生地の上でターンを繰り返しながら、懐中電灯の光を忙しく振りまして青年が探しているものとは…。
(今の風…今夜は嵐みたいな晩だが…密閉された屋内に入り込んで来たにしては馬鹿に強かった。それに、俺の身体を押しのけて通り過ぎた後には、どうも、何処かへ吹き抜けて行く様な音がしていた。だとすると…おそらく、どこかに風の通り抜けられる出口が有るはずだ。)
…なんだ、青年は結局の所、自分が転けた原因を…とどのつまりは、己の為の言い訳を探していたのか。
今回の杯ノ八を投稿いたしまして、本作もようやく総文字数が五千字を越えました。…と言うのに未だ吸血鬼が見登場。
そんな肉抜きの牛丼の様な状態の小説を読んでやって下さいまして、まっこと、ありがとうございます(^v^)…あれっ、ここはお礼よりも、謝るべきか…まぁ、吸血鬼登場させるべく進行はしてますし、良いですよね…。
そして、そんな風に調子こいてみたりもしつつ、この作品を書いていて思うのは…『自分が書いていて楽しめる文章であることは、重要。』ってことですね。
勿論、皆様に読んで頂けることが一番のモチベーション要因であることは間違いありません。…何と言っても、誰かに読んで貰いたくて、わざわざ駄文をネットに投稿している訳ですからね…。
ですが、この『貴女を啜る日々』を執筆していて…改めて、自分が納得できる文章を書くことの大切さを、それと…自分の書きたい文章と、実際に書いていた文章にズレが生じ始めていた事に気付かされました。…ライトノベルは作風として自分に合わないことも、よく解りました…。
お陰さまで、これからは更に自分の好き勝手な文章が書けそうです(^v^)
それでは皆様、次回の、梟小路の自由気ままな文章でお会いしましょう。…えっ、今回の本編に掛けた文字数は幾つかって…ご安心ください。今夜も七百字ぴったりです。




