表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
785/1045

杯ノ七百八十五

 「当然でしょう。…だって…静馬には、私が居るんだもの…。」

「…だな、恨み辛みの()け口がある孤独なんてのは、贅沢なもんだと俺も思う。」

 「二十歳そこそこの坊やの癖に…。生意気言うんじゃないわよ。」

 自分の口元が真っ赤なのも忘れた様子で、顔を上げ、鼻息を零す、月紫(つくし)。一層強く、一層深く、右手を握り締め、指を潜り込ませる。そうしたところで、彼の手を繋ぎ止める何の保障にもならない。彼の心変わりを掴み止める力にはならない。それでも…それだからこそ…離れそうで離れない大きな両手が、嬉しいのだろう。

 だがしかし、あまりしげしげ見つめられると、血に染まった口周りならずとも…頬と言わず、耳と言わず、潤んだ眼差しと言わず…顔が赤くなる。そんな訳で月紫さん、まずは、

(さっきまで、意固地になって目を逸らしていた子が…。これくらいの事で、(ほだ)されてやるもんですか。)

と、苦虫を噛んだかの如く、厳しい呻き声を漏らす。その様な手順で、『まだまだ気に食わないんだぞ』とアピールしてから…右手と、頬の強張りを緩めた。

 「まぁ、それでも…解っているのなら、良いわ。…じゃあ、そろそろ、『王子様』って台詞に静馬が込めた皮肉の、種明かしをしていただこうかしら。」

 大仰に小首を傾げ、気怠(けだる』そうにお喋り。かてて加えて、扇子(せんす)は…ないから左手で、首筋の辺りをヒラヒラと扇ぐ。さながら『貴婦人が従者に指図する』様な、月紫の振舞い。…しかし、それが余計に、『王子様』気分から遠ざけようとする心遣いを感じさせて…本当、優しくて、優しすぎて、何とも甘え甲斐のない女だ。

 頷く様に、静馬は大きく口を開けて、笑みを零した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ