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杯ノ七百七十二

 彼が彼自身を真っ直ぐに見つめられる時まで、代わりに自分が、彼を真っ直ぐに見詰め続ける。そう決めたはずが…早くも、涙ぐみそうになる、月紫(つくし)

 慌てて(まばた)きを繰り返し、微笑みを作って…。多分、こんな表情で、月紫は(ひつぎ)の蓋に笑い返していたのだろう。多分、こんな風に涙で頬を濡らし、夢を見ていたのだろう。

 こうして今、大きく成長した彼に、右手を包まれている。それは彼女にとって、奇跡そのもの…でなければ、棺の中で見ている夢の続き。でも…それでも…現実だろうと、夢だろうと、静馬(しずま)は静馬。どっちにしたって、『月紫』となった彼女の全て。

 だから、神様みたいに見守っているだけじゃ、満足いく訳がない。この先、彼が向かうのが死後の世界なら、お節介焼きに付いて行くであろうし…彼がこれからも生きて行くのなら、なお更、寄り添って歩むのだろう。何せ、『吸血鬼を食べる生き物』の食糧になると言う、大役がある。

 そんな、お節介焼きで、情の深い…情が人間離れして深すぎる所為か、真心の示し方がちょっと過激な…彼女だからこそ…『月紫』だから、静馬を任せられる。任せてやりたいと、著者などは思うのだ。

 ただし、月紫も、著者も、一つ肝に(めい)じねばならない事がある。外でもない、静馬の父である勇雄(いさお)が、『もしもの場合、洞窟に眠る吸血鬼を頼れ』とは、静馬に言わなかった事実だ。

 あるいは、折を見て、告げる気だったのかも知れない。だから、そうする前に亡くなってしまい、タイミングを得られなかった。…と言う可能性はある。

 二人の会話から漏れ聞こえるところによると、勇雄は静馬の幼い時分に帰らぬ人となったらしい。

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