杯ノ七百六十四
澄んだ眼差し以上の言葉にはならない、小さな、小さな、月紫の呟き。そんな心の声が聞こえたんだか、聞こえていないんだか。柔らかく丸まった彼女の左手から目を逸らし、静馬は溜息を一つ。
「…たっく、目の離せない女だな、あんたは…。」
その一言が…やっぱり、蛇行して自分の元へ来るのを確認して…。月紫は不服そうなジト目で、口を開いた。
「ねぇ、リボンだったらどうかしら。」
「はぁっ、何がだよ。」
「だから、『私に装飾品の類は似合わない』って、生意気な口を利いてくれたじゃない。指輪も、ネックレスも、イヤリングも、駄目。…なら、リボンだったら、どうかと思って。」
静馬はその問い掛けに、やや呆れ顔で、
「考え込んでいるなと思えばまだ、そんな事を…。指輪の件は解ったからさ、そろそろ、ご所望の『夢の話』に戻らないか。」
と、口では促しながらも、目線は小さな月紫の頭を品定め。
ペタペタッと頭を撫で回す様な気配を、余裕の笑顔で受け止めながら…。月紫の中の確信は、不敵な自信へと変わる。
「いいえ、この問題をおざなりにしては、夢見心地もなにもあったものじゃないわ。何より、私の『気持ち』が許さないもの。それだから…さぁ、もっと、私の姿を良く見て…素直な思いを聞かせてちょうだい。」
「『稀に見る器量よしのあんたには、どんなお飾りも釣り合わない』とまで言ってんのに、これ以上の『素直』さなんて、必要ないだろ。やれやれ…。」
ぼやきつつ、視線を月紫の金髪に滑らせつつ、静馬は案外とあっさり、
「そうだな、リボンは…悪くないんじゃないか。けど、まぁ、あんたの髪を結ぶ事になるリボンは、不幸だよな。どう頑張っても、引き立て役にすらならない。」




