杯ノ七十四
ここに至るまでに、あらゆる困難をその賞賛すべき精神力で…まっ、自棄になっていた部分も否めないが…兎にも角にも、あらゆる窮状を乗り越えてきた青年が、まさか…泣き言とは…。
いや、それ以前に、遂さっきまで眠り姫に手を掛けるのに大乗り気だったのに対して、何だよその唐突な拒絶反応は…。君は、そんなにも恐ろしい所業を、この…少なくとも、見た目だけはなら間違いなく…無垢な童女に働こうというのか。
濡れた青年の指先から水滴が零れ落ち、童女の青褪めた頬を伝う。
青年は表情を引き締め、目付きを鋭くして、
「このままずぅっと、この娘の美貌を水浸しにしている訳にもいかないよな。…この手を引っ込めて、この場から退散するか…それとも、腹をくくって突っ込むか…二つに一つだ。」
一瞬、青年の両手の指が、力無く丸まろうとして…だが、青年は…やはり…。
「えぇいっ、もうどうにでもなれだ。」
と、青年は指を猛禽類の足の如く広げると、恰も襲い掛るかの様に、その手を童女の口元へと伸ばした。…これから一体、どの様な恐ろしい事態が繰り広げられるのであろう…。
青年は長い指で、血の気の失せてなお艶やかな童女の唇へ触れると…あぁ、何と言うことであろう。まるで、蕾をむしり取るかの様に、指を童女の唇の中へと押し込んで…まったく、何て残酷な光景なんだ…これは、流石の著者でも怒りを禁じえない。
青年は…青年は、童女の唇に銜えさせた両手の指を、各々、上下へと分かち…無残にも、童女の桃色の…歯茎を…白磁の様な…歯列を…不道徳にもさらけ出したでは無いか。
余りに酷い。あんなに愛らしかった童女の容貌が…今や、チンパンジーそっくり…。
杯ノ七十四を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
今回は、良い塩梅に『いかがわしさ』を書き込めて、実に爽快。これでまた一つ、ヒロイン(未定)の魅力が引き出せたでしょう…うむ、満足、満足。
それではまた、今回のテンションを引きずった感じで始まるであろう、次回の梟小路が綴る文章でお会いいたしましょう。




