表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
729/1045

杯ノ七百二十九

 静馬(しずま)の大きな掌を見つめる月紫(つくし)の瞳が、熱く、熱く…目玉も一緒に成って転げ落ちそうな、温かい涙に包まれる。

 (本当を言うと、静馬のその手だけで私は満足。何にでも成れるし、何にでも成って上げたかった。…けれど、静馬が…静馬自身が、貴方の望むものになれるまで、我慢するわ。私も、貴方と二人で…。だから…。)

 柔らかく目を閉じ、瞼で涙の温かさを味わう。そうして、月紫が笑い声に喉を鳴らした。

 (私は、静馬を傷つけた…傷つける事を選んだ聖子(せいこ)とは違う。静馬に『気持ち』をかわされる事だって、もう恐れはしない。恐れなくても良いと、貴方が教えてくれたから…。それを今、見せてあげるわ。)

 下がり掛けた右手を再び(かか)げ、ニッコリッと笑顔を浮かべる、月紫。

 彼女の仕草で肩透かしを食らった風の静馬は…。ややバツの悪そうに(うめ)いて、ポツリッ、

「その顔、その様子からすると、自分の左手でも、牙でも使って、右の指を引き抜く積りって事だな。」

 ちょっと非難めいた口調に成ったが、すぐ茶化す様な言い回しへと修正。だがもうしばし、静馬の眉間の辺りで、バツの悪さは留まりそうだ。

 月紫はそっと、彼の(ふく)れっ面の方へ左手を伸ばして、

「それじゃあ、静馬は退屈でしょう。心配しないで、私、静馬の楽しみを取ったりしないわ。」

と、そんな彼女の左手を、邪険に払い除け、

「いやいや、こうして、鬱陶(うっとう)しいのを追い払うので忙しいからさ。退屈している暇はないな。むしろ、この…しつこい奴の相手は、あんたの右手に任せて…。独り言に専念したいくらいだ。」

 更に、彼と、彼女の左手の奮闘は続く。楽しげなお喋りを交えて…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ