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杯ノ七百十三

月紫(つくし)の人間離れした…もとい、人間のそれとは距離を置いた健気さ。そんな『気持ち』に思いを()せるのは一先ず置いて…。彼女がこんがらがってしまう前、どうにかたどり着けた『冴えた答え』に戻るとしよう。

 ここでやっと小首を(かし)げ、静馬(しずま)を射抜く様に、照準を定めるかの様に、左瞼を絞る。そうして月紫は、少し愛想を利かした笑い声を漏らしつつ、口を開いた。

 「いいえ、静馬が私に寄越した返事は、最高だったわ。拙い洒落っ気を拾った…拾ってくれたのだと思っていたのだけれど…。私の勝手な、心得違いだったのね。」

 絞りに絞った目線は、しゅんと寂しそうに緊張を解く。口元は物憂げな吐息に震え、あられもないシャツの胸元には真っ白な素肌。そして、はしたなさまで計算されたその姿は、胸元から真っ直ぐに伸びた首筋で極まる。完璧だな。この艶めかしさが今の格好に相応しくないこと以外、完璧に違いない。

 さて、自らの魅力を最大限まで引き出した女性は、それからどうするだろう。

 言わずもがな、男の視線は自分に釘付け。…ならば、時の経つのを楽しむという選択しもあるにはある…しかしながら…。

 まじまじとこちらを見る彼の目に、妖しい笑みを返す、月紫。そのまま…良い気に成って…唇の隙間を広げていく。

 「ねぇ、そう思うでしょう、静馬…。」

「…いや、『そう思うでしょう』と言われてもな。俺がどんな洒落っ気を『拾った』のか、あんたの何が『心得違い』だったのかも、こっちはさっぱりなんだ。悪いんだが、一から説明してもらえるか。」

 静馬はそう、ちょっと途方に暮れた表情で頭を下げた。…何ということ。まさか、彼女の魅力を素通りされようとは…。

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