杯ノ六十六
蝋燭の微光の中…目を凝らすまでも無く、青い静脈が透けて見える白い肌。満天の星が砕け散る様を見る様な、眩い光を放つ金髪。伏した長いまつ毛と、薄膜の様な目蓋の下には…彼女の美貌に相応しい宝石がはめ込まれているに違いないだろう。
年の頃は十一、二と思われるその西洋の少女は…確かに、魅力的だ。魅力的な事には間違い無いのだが…それはあくまでも、仕上がりの良いビスクドールに感じる類の魅力であって…一人の女性として、それも大の男が思いを寄せるに足る魅力かと問われれば…少し、熟成が甘いと答えざるを得ない…。
まぁ、何にしろ…自分と、母親を蔑にしていた父親が、こんな年端もいかぬ小娘に籠絡されていたのかと思えば…そりゃあ、笑うしかないわなぁ。そうでもしなければ、泣きたくても、アホらし過ぎて涙腺も緩んでくれそうもないものな…。
青年は腹に溜め込んだ空気を、そして、やり切れないものを、ブロンドの少女の眠る棺に押し込むように笑って…だがしかし、腹の底から空っぽになるまで、一頻り笑った事で精神の気圧が変わって様だ。
ペッタンコになった腹を右手で押さえながら、青年は徐々に冷静さを取り戻し始める。
(いや、待てよ…本当に親父が惚れたのは、この娘なんだろうか…。よくよく考えてみれば、親父が俺に話して聞かせた『あの女』は…やっぱり、もっと『大人の女』ってイメージだったような。朧気だけど…。)
と、青年は落ち着いて息を吸い込む。それから、腹の膨れるに合わせて右手を離して、
「とりあえず、確認する事があるよな。」
そう言うと青年は、右の掌を少女の口元へと近づけた。
…息はしていない様だ。
杯ノ六十六をお読み頂き、ありがとうございました(^v^)
今回の文章作成に掛った時間は、おおよそ、15、6分といったところ。誤字、脱字をザラッとチェックしても総時間は20分弱でした。…これ、今までの最短記録ではないかいな(^v^)
そう言った訳で、あまりにも早く終わったものだから久しぶりに、この『後書き』も朝の内に書いてしまいました。…それにしても…ゲーテも、ダウスンも、ミュッセも…文学は読み漁ったから、詩的な言い回しの引き出しは多いに違いないだろうけど…本当に、あっと言う間に書き上がったなぁ…ちょっと物足りないほど…。
それでは、また…『物足りない』とか言っちゃっている以上は、今回にも増して情熱を注いでいるはずの…次回の梟小路が綴る文章でお会いいたしましょう。




