杯ノ六
恰も、洋館全体が寝息を立てた様に入り込んでくる土臭い風。それすらも汗ばんだ首筋には心地良い。だが、そんな状態だというのに、青年はどうしてもレインコートを脱ぐ気には成れないようだ。
胞子の様に飛散した埃を吸い込まぬ様に、青年は鼻で小さく風を吸い込む。それから『魂』達に吸い寄せられる様に、懐中電灯で照らした足元を踏み、大階段へと歩み始めた。
後ろからは、新雪を踏みしめた様な足跡が追いかけて来る…。
大階段のステップに掛った足が、タンッと一際高い音を奏でる。青年は埃まみれの鍵盤を、タン、タンッと足で叩きながら…再び、我がものでは無い記憶に思いを巡らせていた…。
(この洋館は元々、旧華族の有栖川達人子爵の別邸だった。戦前からあるこの館は…こんな辺鄙な場所に有ったからだろうが…戦時中も空襲の被害に合うことも無かったらしい。それを1970年代に入って後に、あの女が購入した。)
青年は大階段の中程に差し掛かったところで脚を止めた。
それから足元を照らしていた懐中電灯の光を、ゆっくりと…階段を撫でる様に、壁をなぞる様に、上へ、上へと差し向ける。そうして、懐中電灯を持つ右手が青年の肩の高さを越える頃、青年は腕を動かすのを止めた。
懐中電灯が照らし出したそこには、大きな、一枚の肖像画が壁に掛けられていた。
縦が2メートル近く、横でも1メートルは優に超える程の、斬新な模様の額縁。その中で壮年の男性が、十数年ぶりにも成ろうかという客人に、ニヒルな笑顔を向けている。
どうやら、彼が有栖川達人子爵その人のようだ。…鼻の下のちょび髭が何とも前時代的だが…なかなかの好男子ではないか。
本日投稿分でも、相も変わらず七百字ぴたりでの更新。そして、こちらも相変わらずで…未だに吸血鬼が出てきておりません。
何分、即興で…かなりをその時の思いつきに依存して書き進めて居りますので…正直、梟小路自身にも、吸血鬼があと何話で登場するのか定かじゃないんですよ…。
ですが雰囲気だけは…作品の雰囲気だけは、いつ吸血鬼が飛び出して来ても可笑しくないものになっていると思う…思いたい。出来ることが、兎にも角にも、書き続けることしか無い以上は…。
あぁ、そうそう、急に話は変わるんですけど…≪この作品はフィクションであり、作中に登場した人物名は、実際の如何なる人物とも関わりございません。≫…まっ、敢えて明言するまでも無いことでしょうが、一応ね。
では、杯ノ七の文章にて、再びお会い出来る様に祈っております。(^v^)
…大部分が、こっちの頑張り次第な訳ですけど…。




