杯ノ四十九
その事を、青年は身を持って理解していると言うのに…やはり、彼の覚悟は揺るがないか…。
青年は…気休めにも成りはしないであろうが…左手で口元を覆い、右手の懐中電灯で暗闇を引き裂いて…扉の…洞窟の中へと入って行った。
扉のその奥は、堅く、冷たい石の香りに閉ざされた、まさしく洞窟であった。…ここまでは彼の予想の通り。青年の足取りに、期待とも、焦燥感とも付かない力強さが加わりだした…。
しかしながら、どうもこの洞窟、青年の想像の範疇に入っている事ばかりでは無さそうだな。良くも、悪くも。
まず、青年にとって幸運だったのは、彼の息を詰まらせた洞窟の瘴気が、蓋を開けてみれば…否、扉と言う蓋を開けたお陰で、随分と薄まっていた事だ。
これならば、暗闇で息も絶え絶えに、呼吸困難の苦悶の内に死を迎えるという非業の最後だけは回避できるだろう。
(こんな虫も通わない洞窟の中で…骨に成る事も出来ず、死に際の酷ぇ顔を半永久的に晒しものにし続けるのは…流石に、ちょっと嫌ではある。だが…それは、どうやら避けられそうな状況となって…とりあえず、最大限に注意すべきなのは…。)
と、和室の扉の方へと向けて流れる淀んだ空気の塊が、青年の向こうっ面へとぶつかった。
青年は踏ん張る様に足を止めて、ギュッと、瞼と、口を閉じ…洞窟の壁面を、熱を奪われながら滑る『吸血鬼の息使い』を堪える…。
背後では、扉の縁となる石壁へ引っ切り無しに身を擦りつける、風の音。その音から数秒遅れて、自分の喉の内側を抜け出す息の音が、耳に届く様に成った頃…青年はまず、口に宛てていた左手を洞窟の壁面へと移し…それから、足に掛る力を緩める。
杯ノ四十九を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
やはり、文章を書くには朝が最適ですな。夜は…特に、週末の深夜は気が散って、散って…だらだら書いた所為で昨日は、後書きまで書き終えるのに三時間くらいはかかった様に思います。
うん、やっぱり、多少早起きすることになっても『貴女を啜る日々』は朝型即興小説で貫かせて頂くとしましょう。
それでは、また、じんわりとした朝の温もりのもと綴る、次の梟小路の文章でお会いいたしましょう。




