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杯ノ四十六

 土壁が音も少なに崩れ落ち、その内側で、右手に引かれた扉はすんなりと開いた。

 青年はどこか満足そうに笑うと、また一歩後ろへ。そうして、腰の辺りまで舞い上がった濃霧の様な砂埃をやり過ごすと、開いた扉を見る。

 扉の表面にはまだ、塗りたくられた土壁の一部がへばり付いている。しかし、その下から覗く色と、『重い、重い』と悲鳴を上げる蝶番(ちょうつがい)の金切り声からすると、どうやら扉自体も取っ手と同じ鉄で出来ている様だ。

 青年は扉の更に向こうを見通そうと、鉄の扉の縁を捻った右手で逆手に掴みこじ開ける。

 蝶番のヒュウッと苦しげな息使いも、扉が床の間の脇にある床柱(とこばしら)の傍まで追いやられたところで、絶えた。

 投げ出された懐中電灯の光芒が、縁側の木目を濡らす。

 青年はその様子を視界の端で捉えながら…父親に別れを告げた余韻を引きずった、その心持で…躊躇(ためら)う事無く、むしろ、意気揚々として、床の間の奥の闇へと歩み寄った。…青年の瞼が、目玉の飛び出さんばかりに見開かれたのは、まさに、その時であった…。

 それはまるで、唐突に口の中へコンプレッサーのノズルを入れられて、胸一杯に圧縮した空気を送り込まれた様な感覚。つまりは…肺が内側から破れてしまわんばかりの、苦悶(くもん)…。

 突然の苦痛に喉を、胸倉を、掴んでみたり、押さえてみたり。そんな風に両手をおたおたとさせながら、青年の身体は床の間に尻もちをついて倒れる。

 そして、青年は苦しみの余りから、その場でのたうち始めた。

 ゴロリと床の間から転がり落ちるその際に、左の肩と、肘を乾いた畳に打ちつけて…しかし、その痛みと、胸苦しさの最中にあっても、青年には解かっていた。

 杯ノ四十六をお読み頂き、ありがとうございました(^v^)

 やっとこさ開きましてね、洞窟への扉が…やぁ、えかったなや。…って、どこの方言だろうな、この言い回し…。

 兎にも角にも、後書きに書く内容も尽きてしまっている昨今、早いこと吸血鬼に辿りつかないとネタ的にしんどい…そんな頭の重い悩みを抱えつつ…即興小説なので、先の展開は頭の重みから除外しつつ…また、次回の梟小路の文章でお会いいたしましょう。

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