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杯ノ四十三

 一つ、また一つと崩れ落ちていく、土壁の破片。その塊が砕け散り、土塊(つちくれ)へと帰っていく様を目の端で捉えながら、青年はせき込む様な、苦しげな言葉を続ける。

 「もしかしたら俺は…この鉄輪に繋がった目には見えない鎖に…親父の未練っていう、赤錆びた鎖に引き寄せられてここまで来たのかも知れないな。だとしたら今も俺は、この鉄輪を引っ張っている積りで居ながら、親父が俺にこんこんと話して聞かせた昔話に、巻き込まれているってことになのかな。」

と、青年の言葉に抗議するかの様に、一際大きい破片がゴロンッと床の間を転がった。

 その、うずくまる様な、拗ねた様な土塊を…青年は眼球だけ動かして見下ろしながら、

「なんだよ。もしかして『錆びてる』って言ったのが気に入らなかったのか。悪く取るなよな、親父。俺は別に、嫌みの積りで言った訳じゃ無いんだからさぁ。ただな…。」

と、男友達を冷やかす様な笑みと、口振りで、

「ただ…俺を含めた、生き物という生き物がまともに息をすることも出来ない様なこの館で…あんたのあの女への未練の思いだけが、やけに生き生きしている様に感じられたから…だから、ただ何となく、錆びてる何て言っちまったんだ。…俺としては珍しく、大嫌いなあんたの事を褒めた位の積りだったんだぜ。あんたも人の親なら、それ位の事には気づいて欲しいもんだな。まったく…。」

 土壁全体が、その内側の扉に押しつぶされる様に、床の間へと膨らみだす。それに伴い、青年の上体が後ろへガクンッと傾いた。

 急激な形状の変化に耐えかねて…クジラが潮を吹く様に、土壁が苦しげに砂埃を舞い上げる。汗まみれの顔に砂が張りつき、口の中には土独特の渋みが広がる。

 杯ノ四十三をお読み下さり、ありがとうございました(^v^)

 次いで、昨日の、小説の更新が大分後までずれ込んでしまいました事をお詫びします。…いやぁ、なかなか思い通りにはいかないものです。

 おそらくは、これからもこういった状況が頻出すると思いますが、どうぞ、勘弁してやって下さい。

 しかしまぁ、あくまでも毎日更新できることが一番ですので、目標は…あまり高くも設定できませんが…現在の低空飛行を保って、これからも安全航行に相勤めていきたいと存じます。

 それではまた、吸血鬼という暗い地平を目指して、次の梟小路の文章でお会いいたしましょう(^v^)

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