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杯ノ四十

 浸み入る汗に堪え切れずに、堅く(まぶた)を閉じて…どうやら、青年も気付いたようだな。…暖簾に腕押しとは言わないが…肝心の所に力が伝わっていないであろう事に…。

 青年の瞳は汗に溺れて開くことすら出来なくなっていた。それでも青年は、その瞼を(ぬぐ)おうともせず、ひたすらに鉄輪を握り締めている。…頑なに、懸命に…。

 おや、月光に照らされて、青年の目に光るものが…。何らの手を打たない理性に愛想を尽かした様に、瞼の縁に溜まった涙を洗い流そうと、涙腺から涙が溢れ出て居るのだ。

 それは、単なる生理現象…何てことの無い反射にしか過ぎないのかも知れない。…否、そんなはずが…青年の瞳から頬を伝って流れ出すこの涙が、無感動な…月夜に熱を奪われた冷や汗などと、同じはずは無いのだ。

 何故って、ほら…歯を食い縛って鉄輪を引く青年の表情を…その挑戦的でいて、心底から楽しそうの笑顔を見れば解かるだろう。

 まったく、この館に入ってからこっち、青年がこんなに充実した顔を見せてくれるとは…おそらく、青年自身も心のどこかで、そんな自分の熱意に戸惑っているのだ。

 だからこそ…本当は、呼吸をする余裕すら無いほど渾身の力で鉄輪を引いている癖して…青年は可笑しそうに笑い声を漏らす。

 そうこれは、ただ壁の奥の扉を開くためだけの行為では無い。多分、これは…青年が夢中で引っ張っているのは、きっと…子供時代には決して届かなかった…遠い、遠い面影から伸びる…分厚い手…。

 そうだ、だからこそなのだ。だからこそ青年は、愉快に、そして、引き付けを起こした様に苦しげに…笑うのだ…。

 「なぁ、親父。気持ちは解かるけどな…そろそろ、強情張るの止めにしないか。」

 杯ノ四十を読んでやって下さって、ありがとうございました(^v^)

 …っと、言う訳で、『貴女を啜る日々』も第四十話目という晴れの日を迎えることが出来ました事を、ここで皆様にお礼申し上げます。

 えっ、「吸血鬼ものの小説で『晴れ』なんて単語だして良いのか」って…良いんッスよ、どうせまだ吸血鬼出ていませんからね…フフッ…本当、あとちょっとが矢鱈と遠く感じる。

 吸血鬼要素が作品に欲しいことも確かなんですけど…梟小路的には女っけの方も早く何とかしないと、いい加減、モチベーションの方が…。

 まっ、モチベーションがどうのと言いながら、後書きを書き進める手が止まらなくなる前に、この辺にしときましょうかね。

 それでは、また、何のかんのでやる気だけは十二分の、次回の梟小路の文章でお会いいたしましょう(^v^)

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