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杯ノ三十九

 ひり付く喉へと強引に空気を通して…(あたか)も、父親を()めつける様な眼差しで…青年が言葉を続ける。

 「こいつは、まんざら根拠の無い山勘(やまかん)だって訳じゃないんだ…。あんたは俺に、『洞窟へ通じる扉がある』とも、『扉を壁で隠した』とも言わなかっただろ。それが良い証拠だって…。」

 鉄輪を掴む右手が…少しだけ…その力を緩めた。

 青年はどこか誇らしげに、それでいて、どこか寂しげに…もう一度、歯を見せて笑う。

 「なぁ、親父…俺もそう言う、男心みたいなのが解かる歳になったんだぜ…だからさぁ…。」

と、俯き、大きく息を吸い込んで…、

「あんたの最愛の女の寝顔を覗きに行く俺の助平心(すけべごころ)も、許せよな。」

 青年は、その好敵手に向けられた様な不敵な笑みを止めたまま…グッと奥歯を噛み締めると…有らん限りの力で鉄輪を引き始めた。

 足を踏ん張り、後ろに加重を掛ける。

 青年のその動作は、真実、全身全霊を傾けて行われていた。それを示す様に、鉄輪を握り締める右手の指さえ、自らの力で引っぺがされそうになっている。

 青年は懐中電灯を放り出した。そして、恰も、直面する暴風に立ち無か様に、左手をはがれ落ちそうになっていた右手へと重ねる。…と、右手の指を潰さんばかりの力が加わった事により…土壁全体からボロボロッと、乾いた土の粒が床の間へと落ちてきているでは無いか。

 青年もそのパラパラという音に鼓舞される様に、奥歯を食い縛って膂力をふるい続ける。だがしかし、あと一歩、もう一歩、決め手に掛けるらしく…土壁が崩れ、扉が現れ()でる気配だけが見えない。

 額に浮いた汗の玉が、まつ毛を迂回して流れ落ち、青年の両の目へと入り込む。

 杯ノ三十九をお読み下さり、ありがとうございました(^v^)

 作中では前回に引き続き、青年が鉄輪を引き続けています。…駄洒落です、スイマセン…しかしながら、即興小説の恐ろしさが遂に、ここまで浸食してきたか…。

 さて、後書きとは言え、これ以上酔いに任せた文章を書いても仕方ありませんので、この位で…それでは、次の、酒が抜けた頃合いに書いているはずの、梟小路の文章でお会いいたしましょう。

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