杯ノ三十八
「輪っか…だな…。」
青年の言う通りそこには、ずしりと重そうな黒い輪が土壁から生え出していた。
青年は腕がもつれない様に気を付けて、その輪を右手で掴む。…冷やりとした感触から、それが鉄で出来ていることが解かった。
ギッと金属の擦れ合う音をさせて…土壁から垂れ下がった鉄輪を、半ば引っ張る様に地面と平行な角度へ…青年はそこで、一端、手を止める。
そして、さっきから高鳴るばかりの胸の鼓動を沈める様にわざと、ゼー、ハー、ゼー、ハーッと荒っぽい息を吐く。…そう、青年には直感が有ったのだ。今、自分の握っているこの『輪っか』が…、
(必ず、壁の奥の扉にくっついている。…絶対だ。賭けても良い。こいつは扉の取っ手となる鉄輪で、この荒壁は扉を隠す為に塗りつけられたものに違いない。つまり、俺が思い出すべきは…辿るべきは掛け軸の後では無く、掛け軸の後ろに何があるかって事だった訳だ。まったく、やってくれるよな、親父の奴…。)
と、鉄輪を掴む手の圧力がどんどん強っていく…。青年は、右腕全体に広がる、筋肉の力みという充足感を白い歯を剥き出しにして笑って、
「そう言う事だ。ここに『あの女』の寝床に続く扉がある以上、この壁は親父がこさえたと見て間違いない。」
と、息を荒らげている時に、無理に舌を動かしたものだから、青年はゴホッゴホッと咳込んで…しかしながらその目は、喋るのを止める気はさらさら無いという青年の心境を、雄弁に物語っていた。
青年は眼光鋭い両眼を土壁に向ける。それはまるで、親の仇でも見るかの様に…いいや、そんなんじゃないのは…今夜の白い月にも、そして、荒壁に浮かぶ壮年の男性の面影にも、解かっていた事であろう…。
杯ノ三十八を読んでやって下さって、ありがとうございました(^v^)
いやぁ、それにしても…何でか今回の執筆には、いやに時間が掛りました。
普段なら、朝の30分弱で700字を書き上げるってリズムで執筆しているのですけど…今日はえらく所要時間をオーバーしまして、結局、夜の部にまで本文作成が延び延びになってしまいました。…でも、お陰で後書きに載せる内容には困らなかったので…全体としては、おっつかっつだったかな…。
そう言う訳で、調子を狂わせる事が有りながらも、梟小路はそれなりに上手くやらせて頂いております。要は、愚痴を零したと見せかけつつ、そのお礼を皆様に申し上げたかったのです…本当かよ(^v^)
さて、文章がそれなりの纏まり方をしましたので、この辺で…また、次に梟小路が書くであろう、愚痴で、お礼な文章でお会いいたしましょう。




