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杯ノ三十一

 黒々とした岩の表面は鏡面の様に酷くなめらかで、灯りを四方に散らすこと無く反射させている。

 あるいは、この場所もかつては止むことなく水の流れ落ちる滝の一部で、岩を研磨した流水の名残がこうして夜をぼかしているのかも知れない。

 そんな事を考えながら、真っ直ぐに延びる光線に…そして青年の視線に続いて岩肌をなぞっていると…おやっ、いつの間にか光は、日本家屋の外壁の上に厚みの無いリングを形成しているではないか。

 これは可笑しいな…岩肌を左に進む光の輪は、日本家屋の外壁に到達するまでに一度も途切れることがなかった様に思ったのだが。見間違いだろうか。

 どうやら、著者達よりも一足先に、事態の以上に気付いたご様子の青年。

 そんな彼自身、自分の見ているものが信じられぬとばかりに、足首の鈍痛さえ忘れてしまった様な足取りで岩肌に近づく。

 (これ、完全に喰い込んでるよな…岩に…。いや、違うな。むしろこれは、岩石質の山肌に元々開いていた穴を塞ぐようにして、この日本家屋を建てたみたいな…。)

 青年が二、三歩後ずさりして、日本家屋の天井部分を見上げた。

 その全貌は定かでは無い。だが、恰も岩肌に開いた大口に喰いつかれた様に、天井も岩の壁面へと潜り込んでいるのが解かる。

 青年は反らした喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。そして、挑む様な、それでいて諦めを(にじ)ませた様な味の濃い笑みを浮かべる。

 (岩肌に開いた大穴。そしてもし、その穴が、この岩山をくり抜いたみたいに奥へと通じているとしたら…それって、立派な洞窟だよな。なんか、いよいよ、あんたから聞かされたことが現実味を帯び始めてきたみたいだよ、親父。)

 青年はその会心の笑みで月を見返した。

 起きぬけの脳味噌をフル稼働して、なんとか、『洞窟』という伏線を物語の本筋に手繰り寄せることが出来た様です。…まっ、若干のパワープレイ感は否めませんが…。

 しかし、とうとう青年は、『ここ』に至りましたか。即興小説なので著者当人にも、『ここ』が『どこ』なのかが、次の文章を書いてみるまではっきりしないのが不安の種ですけどね…。

 まぁ、なるたけ読み応えのある若葉が芽吹くことを期待して、次の文章も早起きで、脳味噌フル回転で頑張ります(^v^)

 今回も杯ノ三十一、並びに、後書に目を通してやって下さって、ありがとうございました。

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